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 プリスは走った。
 青黒い姿がそれを追う。
「ナイトセイバーズなら早くやっつけちゃってよぉ! ラミィ、食べられちゃうよ!!」
 泣き叫んでいる。
 ったく!
 せっかく引き離しといたのに…。
 プリスのバイザー・モニターの視界の隅を左から右へ影がよぎる。
 そっちへ行くじゃないか、馬鹿が。
 円筒形の支柱の陰からプリスは躍り出た。
 影の針路が鋭角に折れ曲がり、プリスに向かってくる。
 あっちは異常なしかよ。
 ブーマの紅いセンサーアイが正面に迫る。
 プリスは横っ飛びに次の支柱の影に入り、上へジャンプ。
 目標を失った戦闘ブーマは、プリスの姿を隠したコンクリート支柱に向かってビームを放つ。そこを狙いすまして、ブーマの頭上からプリスは襲いかかった。
 宙を飛ぶプリスの腕がブーマの頭へ伸びる。
 ブーマがビームを吐き続けながら頭をもたげる。
 白熱したプラズマの帯が空を裂いてプリスに迫った。
 耳障りなアラーム音がヘルメットいっぱいに響き渡る。
 ブーマの肩でナックル・クラッシュが炸裂、同時に荷電粒子の炎がスーツの脚を舐めた。ブーマの腕が吹き飛び、ミッドナイトブルーのハードスーツがコンクリートの床に叩きつけられる。
 プリスはそのまま転がってまた別の支柱の陰に身を隠した。
 スーツの右脚のアクチュエータが悲鳴を上げている。
 熱衝撃で装甲がイカれていた。
 プリス自身のダメージも大きかった。
 歯を食いしばり、苦痛を堪える。
 ちくしょう…。
 バイザー・モニターの硝煙の中にブーマが立ち上がった。
 右半身がずたずたになり、臓物のように機能繊維や光ファイバが垂れ下がっている。だが、紅い眼を光らせた頭部は、プリスの姿を求め執拗に周囲をサーチしていた。
 不気味なセンサ・プローブが眼球のまわりで別の生き物のように動めいている。
 立てる…か?
 プリスは、ヘルメット内側に表示されるアラームシンボルに素早く目を走らせた。
 表面装甲破損。
 センサ動作不良。
 右脚部動作異常…か。
 無味乾燥な表示だ。プリスの感じている痛みについては一行たりとも言及していない。
 気楽に言ってくれるぜ。
 戦闘可能時間 3分12秒。
 スーツ最大可動時間 5分37秒。
 ナックル・クラッシュ、残弾数 1。
 あと3分でゲームオーバーかよ。
 あのガキ、うまく逃げただろうな。
 プリスは思った。
 でなかったら、今度こそ張り飛ばしてやる…。
 スーツの中、肩で大きく呼吸するプリス。
 これだけ痛ぇってことは、右脚はまだあるってことか。
 モニターの中で、紅い眼がプリスの方向を向いた。
 ブーマは揺らめくように、一歩、脚を踏み出した。
 ハ、見つかっちまった…。
 自嘲するような笑みを一瞬浮かべ、プリスはキッと一文字に唇を結ぶ。
 脚の痛みは激しくなるばかりだった。

 ラミィの目の前で、ブーマとハードスーツが火球に包まれた。
「おばさんっ!!」
 両手で口元を蔽って、ラミィは叫んだ。
 ま、まさか、ナイトセイバーズがやられちゃうなんて…。
 そんなこと…。
 そんなことないよね。
 広がった光が急速に弱まる。
 その中に、ブーマが倒れるのとハードスーツが飛び離れるのが見えた。
 無事?
 ラミィはナイトセイバーズを呼ぼうとしたが、声が出なかった。
 ざりざりとコンクリートを踏み砕く音。
 爆発後の闇の中、紅い小さな光がぼっと浮かび上がる。
 ぶ、ブーマ…。
 あれでもやられなかったの?
 膝ががくがくと震えた。
 逃げなきゃ、でも、ナイトセイバーズは…。
 でも…。
 でも!
「どうしたらいいのよぉ!」
 ラミィは叫んでいた。



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