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ティラーにて 〜あるいはラミィのためのエピローグ〜 ラミィに問われるままに、ラビィたちは宇宙での出来事を話した。 陽が落ちる頃になっても、話は尽きなかった。 枯れ木を集め、火をおこし、炎を囲んで7人は語りあった。 ラビィ、エルザ、ルフィー、キャティ、ポニー、パティ。 そして、ラミィが名付けた、もうひとりの “パティ”。 せかされながら、ポニーはぽつりぽつりと喋る。 ルフィーは、ややオーバーにアクションを交えて。 エルザは、それを補いながら、ともすれば脇にそれそうになる話を軌道修正する。 誰かに問われた時以外は、キャティは口をはさまない。 パティは、いくら喋っても喋りたらない様子だった。 ラビィは、そんなみんなの姿を満足そうな表情で見守っている。 それでも、まだ記憶に新しい出来事に、頬が紅潮していた。 真ん中に炎が揺れ、辺りの闇が彼女たちを守るように包みこんでいた。 「ねえ、それでそれで、パティはどうなったの?」 「だからぁ、それはさっきも言ったでしょうが!」 「さっき話してくれたのはエルザだもん、パティからは、まだ、なーんにも聞いてないわよ、ポニーと一緒に船に残されちゃって、それから?」 「しょうがないなぁ、ほんとに…」 パティはいかにも渋々という態度を見せる。 しかし、実際は喋りたくてしょうがないのだ。 ちらっと、ポニーの表情をうかがった。 「いいわよ。その辺のいきさつはラビィたちだって知らないんだもの」 ポニーの承諾を得たから、というわけで勿体ぶった感じでパティは喋リだす。結局、口を開けば自然に熱が入ってくる。 「…もう行くっきゃないって思ったわ。だから、ブロンディをだしてくれって艦長に頼んだわけ」 「え、艦長ってだれだっけ?」 しっかり同じレベルだよなぁ。 ルフィーは二人を見ながら思った。 頭の後ろに手を組んで、草の上に寝ころがっていた。 ふと、ポニーと視線が合う。 ポニーは、そろえた両膝をかかえて、パティの話に耳をかたむけていた。 その肩には、キャティがもたれかかって目を閉じている。 ルフィーは、横になったままちょっと肩をすくめてみせる。 ポニーも、同じ動作でルフィーに応えた。 思い思いの姿勢でたたずむ各人の姿が、暖かな炎に照らされ浮かび上がっていた。 ラビィは、ついさっき火のそばを離れたきりだ。 バティとラミィはそんな周囲に気づく様子もない。 二人の声だけが、昆虫の鳴く声と火のはじける音を遮る。 「…それじゃあ、進めないじゃない!」 「そうなのよ、エルザたちが落としていってくれたマーカーを追って、やっとたどリ着いたと思ったら、完全に道が塞がれてるんだもの。時間は追ってくるし、どうしようかって。ブロンディにはもう何にも武装がなかったし…」 「うんうん」 ラミィは身を乗り出す。オレンジの光が瞳の中で踊っていた。 ルフィーは、すぐ隣に脚を投げ出しているエルザを見上げた。 ぼんやりと炎を眺めている。 「これから、どうする?」 何気ないふうを装っていたが、ある答えを期待した質問だった。 「そうね…。どうしたらいいかしら」 炎を見つめたまま、エルザはつぶやいた。 「…らしくないぞ」 エルザの曖昧な反応に、ルフィーは片手をついて身体をおこす。 「いいじゃないの、今は」 ぐっと両腕を天に向かって伸ぱすと、エルザはあおむけに寝ころがった。 夜空をよぎって、銀色の星の帯がまたたいていた。 決めてしまいたくない。 それがエルザの気持ちだった。 あそこには、ちゃんと船があるし、戦いが終わったわけではない。 単に振り出しに戻っただけだ。 これからは、もうひとつ別の戦いも始めなくてはならないだろう。 理解してはいても、ためらいが残る。 「らしくない、なんて言わないでよ、ルフィー。私のことまだガチガチの石頭だと思ってるの?」 「そんなこたぁないさ。ただ、」 ルフィーはどことなく不満気だ。 「ただ? 今だけは許して、ね。あなたに責められるのは、もうこりごり」 「俺に? いったい何のことだ?」 あの時、あんなに激しく私を問い詰めたくせに。 あれは、ただの悪夢だったけれども。 頭の後ろで腕を組む。 柔かな風がエルザの顔を撫でていく。 たとえ夢だとしても、 二度とあんな気持ちは味わいたくないわ。 「じ・ょ・う・だ・ん、冗談よ」 怪訝な表情のルフィーを笑いでごまかしてしまう。 責任回避、かしらね。 大きな危機をひとつ乗り越え、エルザは弱気になっていた。 「どうしたの、二人とも真面目な顔して?」 声と同時に、目の前に飲料パックが差し出された。 「ちょっとね。ありがとう、ラビィ」 エルザは起き上がって、ソフトパックを受けとった。 「ハイ、こっちはルフィー」 ラビィの放ったパックは、狙いたがわずルフィーの掌におさまった。 「サンキュー。姿が見えないと思ったら、こんなもん取りに行ってたのか」 ルフィーは細い円筒形をしたパックのプルリングを起こした。 艦内で支給される清涼飲料のパックだ。 「これしかなかったの。ほんとは、たき火でお湯を沸かして、温かい飲み物でもつくれればよかったんだけれどね」 ラビィは残念そうだ。 確かにパックから飲むのは、この風景にはふさわしくはない。 すっかりリラックスしているな。 ルフィーは、ラビィの顔色を見ながらパックに口をつけた。 「…そのマイアロイってひとが、カッコイイのよ」 「ほんとに−?」 「そりゃね、親衛隊の制服のせいもあるだろうけれどさ、ちょっと違うのよね。エルザみたいにお堅くはないし、かといってルフィーみたいに崩れ過ぎじゃないし…」 パティの言葉を聞いて、ルフィーとエルザは顔を見合わせ苦笑した。 いつの間にか、話がずれてきてやがる。 「おいおい、『崩れ過ぎ』 はひどいぜ」 ルフィーの抗議にラビィもつられて笑った。 「パティも、ラミィも一休みしたら」 二人は、そこで初めてラビィが立っているのに気づく。 「あ、ありがと」 パティはパックをうけとると、封を切って一気にあおった。 「もう、喋りすぎてのどカラカラ」 一息ついて、ふと見ると ラミィが飲料パックを持ったまま、キョロキョロ周囲を見回している。 「どうしたのよ?」 「ん、え?」 ラミィはうわの空で立ちLがった。 「え、じゃないわよ。何捜してるのよ?」 「パティがいないの…」 「私はここにいるでしょ−が、馬鹿なこ」 そこまで口にだしてパティにも分かった。 「そう言えば、さっきから姿が見えないわ」 エルザも立ち上がる。 あの子がいないのだ。 ラビィ、ルフィー、そしてポニーも周囲に視線を走らせた。 辺リは、たき火をとリ囲むわずかなオレンジ色の輪を除いて、暗い闇に沈んでいる。 何も見えなかった。 騒ぎを感じて、キャテイも目を覚ます。 「どうかしましたか…?」 まずっちゃったかな−…。 暗闇の奥を見透かしながら、ラミィは思った。 つい、みんなの話に夢中になっちゃって、パティのこと、忘れてた。 ほっといたから、すねちゃったんじゃ…。 「手分けして捜すしかないか」 「早いほうがいいわね」 「でも、こう暗いと…」 ルフィー、エルザ、ラビィが相談を始めている。 ラミィは慌てた。 そんな、おおげさ過ぎるってば。 パティはちょっとばかリ素直すぎるだけなんだから! 「待って、待っててば!」 「ラミィ、何か心当たりでもあるの?」 ラビィに聞かれてラミィは大げな身振りで頷く。 「うん、たぶん。だから、そんな心配しなくていいよ」 「そんなこと言っていいの?」 ラビィが聞きとがめる。 「だいじょうぶ、よくあるんだ。それに、こういう時に行く場所は分かってるの」 「だったら、早く言えよな。おまえのさっきの顔見たら、誰だって一大事だと思うぜ」 ルフイーはそう言うと、どさっとその場に腰を降ろした。 「ごめーん。ラミィ、ちょっと見てくるから、みんなここで待ってて!」 今まで見たことがない程、ラミィの顔は真剣だった。 「大丈夫? 私も、一緒に行きましょうか?」 駆けだそうとしたラミィをポニーが呼びとめた。 「いいよ、悪いもん。この辺なら、ラミィの方が詳しいし」 そのまま行きかけて、ラミィは思いなおしたように立ち止まった。 「じゃ、そのかわり、それ、くれない?j 「これ?いいわよ」 ポニーはまだ封を切っていない飲料パックを差し出した。 「ありがと、すぐ戻ってくるから。来なくていいからね!!」 ラミィはパックを受けとると、急いだ。 ほんっとに世話が焼けるんだから。 こうなったら、早く、話さなきや。 あのこと。 決めたんだもん。 あっという間にラミィの姿は暗がりに溶け込んでいった。 「忙しいやつだな」 再びみんなが炎の周リに座るのを待ってルフィーが口を開いた。 「エネルギーの塊だから、ラミィは」 ラビィは笑った。 「本当ですね」 キャティは、ラミイの消えた方向を見やった。 もう、闇に溶け込んでどこに行ってしまったのか分からなかった。 「でも、大丈夫かな、あいつ、そそっかしいから」 パティは不安そうだ。 「心配ないわ、そのことはね」 飲料パックを脇に置いて、エルザが言った。 だけど、あの子のことは考えなければいけない。 結局、のんびりは出来ない。 甘えるのは、だめ、か。 エルザは炎をかこむ6人の顔を見わたした。 「さすが、よくラミィのこと知ってる。前に同じ艦で面倒を見ていただけのことはあるわ」 「そのことはもういいわ、ラビィ」 エルザは、わざとうんざりといった顔をした。 「本当ですか?」 「グレインっていう練習艦でこいつが教官、ラミィが練習生だったんだと。そうか、キャティは知らなかったよな。俺なんかは、ラミィに嫌んなるほど聞かされたぜ」 「あとからスターリーフに飛び込んできたルフィーでこれなんだから、私たちの場合は、想像つくでしょう」 ラビィは苦笑した。キャティは思わず頷いていた、 今の、パティとのやりとりを見ていれば十分わかる。 うらやましい、な。 ここにいるみんなのつながり、雰囲気、どこから生まれてくるのだろう…。 「よかったら、話してくれませんか?」 キャティはエルザを振り返った。 「知りたいんです。ラミィが、なぜか気になってしまって」 「そうね」 エルザは軽くため息をついた。 ラミィのように、さっと気持ちを切り替えなきゃ。 「そんなに面白い話じゃないけれど、戻ってくるまで話しましょうか」 ガサゴソと茂みをかきわける音にパティは振り返った。パティといっても、新個体の方のパティだ。 さっと光が目に飛び込んでくる。 「あ−、やっぱり!」 携帯ライトと頭が、暗がりからにゅっと突きだした。 「ラミィ…、」 「ラミィ、じゃないわよ!!I 急いでとびだそうとしたラミィは藪に片足をひっかけた。 ラミィは無理やり足を引き抜き、その拍子にくぼみにつまずく。 つんのめるようにして、パティの隣に。 「わっ!」 パティに腕を掴まれて、ようやくラミィの突進は止まった。 目の前は水面だった。 「あぶなかったー」 オーバーな動作で胸をなでおろす。 「いきなリ走るからだよ」 「はい、はい、気をつけます!」 ラミィはそのままパティの隣に座り込んだ。 カプセルの軟着陸した位置から緩やかな斜面を少し下る。 すると、人の背丈ほど地面が落ちこんで、段差を作っている、断層だ。その小さな断層は、平原をよぎってほぼ一直線に延びていた。そして段差の下、再び平原が始まる境目を、小さな流れが断層を縁取るように走っている。 流れと段差があることを隠して、木々が茂っていた。 ラミィが足をとられた茂みだ。 今、二人は並んで、段差の縁に腰を降ろしていた。 空に、衛星カオスが姿を覗かせている。 「さがしたんだからね!」 カオスを見上げてラミィが口を開いた。 「ごめん…」 ぽつりとパティが応える。 横目で様子をうかがうと、パティは抱えた膝にあごをのせてうつむいていた。 出だしから、まずい展開。 つい、あっちのパティ相手のつもりで話しちゃうけれど、 こっちは生まれたてなんだよね。 「あやまんなくていいよ。でも、心配したんだから」 「うん」 「ここだって、わかってたけれどさ」 カプセルでティラーに降下したばかりのころ、ここで膝を抱えていたのはラミィの方だった。 もう一度、パティを見ると、まだ流れを見つめている。 「なんかいってよ」 今度はパティの顔を下から覗きこんだ。 「!」 驚いてパティは顔をあげた。 「元気ないぞ。なんかあったの?」 ラミィは持ってきた飲料パックを手渡した。 「うん…」 「で?」 自分のパックの封を切りながら、ラミィは尋ねた。 まず出だしは、OKだね。 うまくやんなきゃ。エルザみたいにやらないと、こいつ、すぐに落ち込むから。 「うらやましかったんだ」 パティはパックを両手で持ってカオスを見上げる。 「え…?」 ラミィは、それを見てはっとなった。 衛星の淡い光に浮かんだパティの顔は、とても悲しげだった。 「ラミィには、あんなに仲間がいる。すごく、みんな優しいんだ。だけど、ぼくはひとりぼっちだもの」 わわわ、やっぱりさっきのがまずかったんだ。 「そ、そんなことないって、パティだって仲間だよ」 パティは慌てているラミィの目を見て、少し微笑んだ。 「みんな、いいひとだからね」 もー、勝手に気をまわして。 ラミィのことばって、説得力ないかなあ。 どうしよう…。 ぐっとパックの中味をのどに流しこみながら考えた。 黙っているうちにカオスは地平線より、だいぶ昇っていた。 気のせいかな。 でも、もう、時間だね。 これっきゃないや、 「弱気なこと言ってると、きらいになっちゃうぞ」 ラミィは、精一杯明るく、大きな声で言った。 「えっ?」 こんど訊きかえすのはパティの番だった。 並んで座っているので、頭ひとつ分背が高いパティは、ラミィを見おろす形になる。 ラミィはからになった容器を、流れに投げ捨てた。 「決めたんだぞ」 パティの目の前に、ラミィの笑顔があった。 「ティラーに残るって。パティといっしょに」 あ−あ、言っちゃた。 パティは目を丸くしている。 「で、でも…!」 そんなにびっくり、しないでよね。 もう、後悔しちゃうじゃない。 「さいしょっから、そのつもりだったでしょ」 「でも、みんなが、」 「そりゃ、やっぱり、さみしいけどさ。みんなと、エルザやラビィたちといられた方がいいかもしれないけれど、ここは、テイラーは、ラミィたちの星だもの」 ラミィは視線をそらして、白く輝くカオスを見上げる。 「いつまでも、いっしょだよ」 そっと、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。 これ以上なにか言わせたら、 ほんとうに泣いちゃうから。 瞳から、ほんの少し涙がこぼれそうだった。 結んだ口がわずかにへの字を描いていた。 パティは黙ってほほを寄せると ラミィの肩を抱いた。 誰かが肩を叩いた。 振り返ると、エルザが目顔で合図している。 ルフィーはかすかに頷く。 音をたてないように気をつけながら後ずさりし、茂みを出た。 エルザ、ルフィーが戻ったのを見て、パティが歩きだした。 5人もそのあとに続いた。 「なんか、悪いことした気分…。来ない方が、よかったみたい」 ポニーがつぶやいた。 「そんなことないわよ!」 先頭を行くパティは背中を見せたまま、声を荒らげた。 「すぐ戻るとかいっちゃって、全然帰って来ない。心配して、捜しにくれば、勝手なこと決めちゃって。かっこつけてさ…」 「そんなこと言っちゃかわいそうよ、パティ」 ラビィにたしなめられて、パティは頬をふくらませ黙り込んだ。まだ、ずっと子供だと思っていたラミィが、自分の考えていたよりもずっと成長していたことが分かった。そのことが、口惜しかったのだ。ラミィのことなら、分かっているつもりだったから。 夜露にぬれた草を踏みながらパティたちは歩いた。 携帯ライトのあかりが足もとを照らしていた。 「どうするんですか、これから?」 キャテイが尋ねた。 エルザは足をとめた。パティも立ち止まり、振り返る。 ラビィたちもその場に足をとめ、エルザの答えを待った。 ようやく決心がついたわ。 負けてしまったわね、ラミィに。 エルザは思った。 「行きましょう」 言ってしまった途端、心の中のわだかまりが溶けるように消え去っていった。 「行くって…、どこへ?」 ラビィが鸚鵡返しに訊く。 エルザは、不思議そうな顔をしているラビィに、晴れ晴れとした笑顔を向けた。 そして、天にかかる星の帯を見上げる。 「何処…? 仲間のところへ、よ」 エルザはルフィーにも微笑んだ。 ルフィーは破顔してこれにこたえる。 満足だった。 利口な答えではないかもしれない。 けれど、それが今なすべきことなんだ。 「そういうこと!」 ルフィーはポンとキャティの肩を叩く。 キャティは、ルフィーの顔を見上げると笑顔で頷いた。 みんなの姿が眩しかった。 この場所に、ティラーに一緒にいられたことがキャティには嬉しかった。 ルフィーは、突っ立っている全員を追い立てるように両手を振った。 「さあ、とりあえず連絡艇のところへ戻ろうぜ。ぐずぐずしてると、ラミィのヤツが戻って来ちゃうからな」 「ええ。ラミィに立ち聞きしていたのを知られたら大変よ」 ラビィの実感のこもった言葉に、誰かがくすくすと笑いだす。 その誰かの頭を、もうひとつの影が軽くこづく。 わずかに残っていた緊張した空気が、夜風に吹き散らされ消えていく。 じゃれあうようにして、6つの影は歩きだした。 上空にはカオスが白い光を放っていた。 夜もなかばを過ぎた頃だった。 |
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◇ ◇ ◇ そして、 これからは、 また別の物語である。 |
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【 END 】 |
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