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  ラミィ −とびきりの笑顔を君に−


 警報シグナルとコールサイン、空電ノイズと助けを求める悲鳴が頭の中を突き抜けていく。
 本当は一刻も早くこんなヘッドセットなんか投げ捨てて、ブリッジから逃げ出したい。が、次々に飛び込んでくるその混乱が、かえってラミィをシートに縛りつけていた。
 ほんの30分前、ラビィの補佐ということでエルザに言われるままにコンタクトシートに着いた。ヘッドセットを頭にかぶるのが嬉しかった。
 だが、今はそんな気分も消え失せた。
 すわって通信系に接続したその瞬間から、戦闘の混乱がラミィの小さな体を飲み込んでしまったのだ。
 耳に飛び込んでくる殺気だった声が、右に左にラミィを小突きまわす。
 ひとりが終わればまた次が待ちかまえている。
 隣のラビィは自分のことで手一杯らしく、なにか訊いても
『それぐらい自分でなんとかしなさいよ!』
 と取り合ってくれない。
 エルザも時折ラビィと短くやり取りをかわすだけで、ラミィの方は見てくれない。ひとり難しい顔をしてコントロールシートに着いている。
 ラミィがなにか言い出せるような雰囲気じゃない。
 こういう時のエルザって本当に恐そうなんだから。
 それに、余裕がない。
 ラビィと話すのだってやっとなんだ。ちょっと気を抜くと次の通信だ。
 OX-11はラビィを贔屓にしてラミィの方ばかりに回線まわしてるんじゃないかと思う。
「ぼんやりしないで!」
 ラビィの声が飛ぶ。
 なにかと思えば、目の前のモニターに10行は回線待ちの通信が並んでいた。
 ヘッドセットの方に気をとられ過ぎていたのだ。
 チラリとラビィの表情をうかがう。
 ラビィはなにを見ているのか、という風にラミィを睨むとエルザを振り返った。
「だめだわ、エルザ。艦長達、アコンカグヤに行ったきりよ」
 もう完全に無視してくれている。
 その間にもう3つ、モニター上に点滅するサインが増えていた。
 勢いラミィはひとりでやるしかない。
 リファレンスモニターをサーチしながら、とにかく急きたてる声に答える。
 艦内通話チャンネルを順次つなぎかえ、OX-11の指示を伝達する。
 内容は解らなくとも急いでコードを読み上げる。時にはほとんど叫んでいる。
「タクティカルフォーメーションはA-16、A-16…じゃなくって、A-19!! 戦闘要員は直ちに攻撃機で発進して下さい。繰り返します、戦闘要員は直ちに攻撃機で…」
「もうちょっとテキパキできないの!?」
 何もアドバイスしてくれないくせに隣からラビィが口をはさむ。
 助けてあげてるのはラミィの方なんだぞ!
「だってラミィ、ここにすわるの今日が初めてなんだもん!」
 ぷっと頬をふくらませるが、ラビィはもうこっちなんか見ていない。
 本当に泣きだしてしまいたい。
 そこへまたアラーム。OX-11がハンガーへの指示を催促している。
 モニターに一連のコードが、ズラッと流れる。
 目はいやおうなしに赤いグラフィックシンボルを追わなければならない。
 パラノイド艦隊の出現、艦長の不在、そんなことはどうでもよかった。
 周囲の状況なんか、わからなかった。
 目の前のパネル以外見えなかった。
 押し込まれる情報をなんとかさばくだけで手一杯だった。
 自然にラミィの両手の指は、コンソールの上を走っていた。
「第2ハンガーの全サービスクルーは…」

    ◇     ◇     ◇

 ある意味で一番目立っていたのがラミィだった。
 絵的な難がある中では、一番気を使って描かれていたのがラミィ。
 もっとも頑張ってくれていたと言うべきか。画面の中央から隅にいたるまであます所無く、目一杯表情豊かに演技してくれていた。
 周囲にの様子にストレートに反応しちゃう、ラミィの素直さがよく出ていた。
 もちろん、ストーリーを明るく彩るといった役割を持たされてはいるのだけれど、それだけに終わってしまっていない。
 環境に素直に応じて、ピタリと状況を感じとっていく。自分を隠さずに表現していく。そういった部分が最後にラミィが少年とティラーに残ることにつながってくると思う。
 隠されたキーみたいなものかな。
 でも、こんな考察めかしたことなんかどうでもいいんだ。
 くるくる変わるラミィの表情と、まっすぐに表現される仲間への気持ち。
 日常の姿が描かれずキャラクターの他の面を探りにくい 「ガルフォース」 では、すごく助けになってくれたもの。例えばエルザについてとか(編:あれは暴走と言うのだ!)
 その時その時のラミィの(だけじゃないけど)表情、感情の断片をつなぎ合わせて、私なりに7人のキャラクターを再構成してきた。今でも作品に接するたび毎に少しずつ違う想いで見ることができる。
 だから、ラミィには最大級の感謝の言葉を贈りたい。
 最後に、ひとつだけ不安が残る。
 ラミィが少年と二人でティラーでやっていけるのかということ。
 どうしても。
 『ラミィが知っている限りの艦などの名前を土地につけた、ということも考えられる』 とかムックのどれかにあったけれど、好みじゃないのだ、そういうの。
 無理やりキャラクターに辛くあたっているみたいに見える。自分たちの生み出した存在なのだから、幸せになってほしいっていうのが道理じゃないのかな。どうせフィクションなんでしょうって? フィクションだからこそ、そう思うんじゃないか。
 フィフティ、フィフティ。最低限そこまでは確保してやってもらいたい。
 そこから後は必ず彼女たちが自分自身でやり遂げてくれる。
 たとえ、一番みそっかすに見えるラミィであってもね。
 私は信じているから…。

    ◇     ◇     ◇

 ギラリと太陽がラミィを睨み付けていた。
 なんて言ったっけ、あの恒星。
 ラミィは立ち止まって流れる汗をぬぐった。歩き始めてからまだ10分もたっていないのに汗でビッショリだった。
 来た方を見れば、白いカプセルの一部がまばらな潅木の間にわずかにのぞいていた。
 森、というよりは林か。
 確か照葉樹だよね。樹が少なかったので比較的楽に来れたけど、ジャングルだったら大変だった。ふとそんなことを考えた。カオスみたいなジャングルだったら。
「ラミィ、早くー」
 向こうから呼ぶ声がする。
「もう、パティったら…そんなに急がせなくったって」
 せっかく一休みしてたのに。ブツブツ。
 それでも振り返ると、さっきまでよりは少し足の運びを速めて歩きだす。
「先にいかないでョーっ」
 ぎっしりはびこった下草をかき分けながら急ぐ。
 これじゃあ、こっちの方がひどいかも。本当のジャングルには下草、ないもんね。
 藪をぬける。ぽっかりと草原が広がっていた。
 あの子はすぐそこでこっちを見つめて立っている。
 強い陽の光を浴びて立っている姿は、なんかほんのちょっとの間に凄く逞しくなった感じがした。
 ラミィを見てニッコリ笑った。
「だいぶ暑いけど、大丈夫?」
「このくらい平気、平気。それより、私がリーダーなんだから、先にいっちゃだめでしょう、パティ」
 息を切らしながら答えるラミィ。
「御免、ついまわりが珍しいものだから」
 笑顔から白い歯がこぼれる。
「しょうがないわねぇ」
 背負った装備のパックの具合をなおすと、二人はまた歩きだした。

 結局、こうなったのだ。
 彼の名前はパティ。
 他に適切な名前は思いつかなかったし、スターリーフのみんなを忘れないためにも “パティ” という名前が一番いいとラミィは考えたのだ。
 それに自然だものね。
 ほんとは、みんなのこと思い出しちゃうの、ちょっと嫌だけれど。
 彼も気に入ってるみたいだし。
 それに、その名前を呼びながら二人でやれば、これからのこともなんとか切り抜けていけそうな気がするのだ。
 これからのこと。
 今、ラミィたちはカプセルが不時着した所からほど近い丘を登っていた。
 1日、カプセルのそばを離れなかった。
 でも決心したのだ。これから二人でやっていかなければならない。
 そのために、何をしなければいけないか。
 カプセルチェック。
 利用出来ると思う物は全てリストアップした。
 今度は周囲の地形の調査。
 まず見つけたいものは水源となる川、池、湖。できたら食糧。
 でもこっちは少しずつ試していかないと危ないから、当分はレーションで我慢だ。幸い保存食はたっぷりある。
 というわけで、二人は周囲を見渡せる絶好の場所と目ぼしを付け、この丘を登っていた。

 帰り道、少し急な斜面の途中だった。カプセルまでもう遠くはない。
「本当に大丈夫?」
 パティが立ち止まって振り返った。
「ま、まあね」
 両膝に手をつき、やっと顔を上げて答えるラミィ。
 ギブアップしたいところだが、パティの手前そうはいかない。
 パティってこんなにタフだったのか。
 頂上に到着、パララックス・カメラで調査を始めたところまではよかった。基準点を設定し、360度全周を順次ディスクに収めて一服。近くに大きな川も見つけ、地図もすぐに作れるし、これで一安心。周囲に広がる風景を楽しむ余裕さえうまれた。
 けれど帰りがまずかった。
 頂上ではしゃぎ過ぎたせいか、それともこのいまいましい午後の日射のせいか、ラミィはあっという間にへばってしまった。
 来る時から嫌な予感はしてたんだ。
 下りだし、装備はみんなパティに持ってもらってるのに。
 情けない。
「はい、」
 パティの方を見ると、水筒を差し出している、
 受け取ろうとして思い出した。
「パティ、全然飲んでないんじゃない?」
「僕はのど、渇いてないから」
 そう言って少し微笑んだ。
 彼だって汗びっしょりだし、疲れてないはずはない。
 パララックス・カメラって意外に重いんだよね。行き帰りとも背負って、その上私の分の荷物まで持って…。
「ラミィもいい! もうじきカプセルでしょ」
「だったら、よけい我慢しないで飲んだ方がいいよ…」
 これにはラミィもつまった。本当のパティだったらガツンと 『飲みなさいって』 と来るんだろうけど、こんな風に、この子に出られちゃうと弱いんだよね。
 穏やかなその瞳で見つめられちゃうと。
「…偉そうに言わないでよね…」
 いかにも渋々という感じに上目づかいにパティを見ながら、右手を出した。
 素直じゃないなぁ、ラミィって。
「ごめん」
 パティの表情がくもる。本当にすまなそうな顔をする。
 わ、まずい。フォロー、フォロー。
「そ、そんな顔しないで。うれしいよ、ラミィ飲むからさ」
「うん」
 やっと顔をあげるパティ。
 本っ当に単純なんだから、気つかってしょうがないわ。
 ようやく水筒の蓋を開け、いざ一息に飲み干そうと飲み口をくわえた。

 次の瞬間ラミィは勢いよく吹き出していた。
「どうしたの、ラミィ!」
 パティがあわてて駆け寄ってくる。
 そのパティにラミィはゴホゴホむせ返りながら空を指差した。
 パティが振り返る。
 完璧に青一色に染めあげられた中を、一本の白いラインがグングンこちらに向かって伸びてくる。
「なんなの、あれ?」
「なんなのじゃないでしょ、早く、双眼鏡、早く!」
 わかんないのは無理ないけど、ぐずぐずしないでよ。ティラーに飛行機雲ってことは、もしかしなくたって、
「エート、これだっけ」
「そう!」
 ラミィはパティがバックパックをゴソゴソやって取りだした双眼鏡をひったくると、目にあてて駆け出した。
 こっちじゃない、カプセルに向かっているんだ!
 あれは、きっと、絶対、間違いなく!
「ラミィー、前見ないと危ないよー!」
 後ろで声を張り上げているパティの注意も耳に入らない。ラミィはコントレールの先端を追いながら斜面を駆け下りていく。

 真っ白なラインはラミィが走り出すのを待っていたかの様にゆっくりとカーブを描き始めた。
 そして、何かが日光を反射して輝いた。



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