| TOP / CONTENTS | BACK / 04 / NEXT |
|
|
|
かすかにたなびくガスが排気口に吸い込まれていった。 目の前には無傷の装甲シャッターが鈍く輝いていた。 マシンガンの銃弾はもちろん、ランチャーから放たれた幾発ものグレネードでも、かすり傷すらついていない。 ただの複合合金の壁が、4人の今までの努力をせせら笑っていた。 幾重もの光子弾の弾幕をかいくぐり、迷路のような排気ダクト、浮かぶ無数の自動攻撃弾、トラップゾーンを突破してきたというのに。あと一歩という所で、厚さ数十ミリのたった一枚の金属が行く手をふさいでいるのだ。 静寂を破って鈍い音が4人の耳をうった。 ダラリと下げたシルディーの右手から、マシンガンが滑り落ちたのだ。 「あとたった数ブロックだというのに…。これも運命だというの」 装甲シャッターの前に立ったシルディーは、目の前の壁にこぶしを叩きつけた。 あと一歩なのに。 このまま恒星破壊砲が発射され、重力の束縛から解き放たれたプラズマの奔流にティラーが、第9星系が飲み込まれていくのを、手をこまねいて待つしかないの。 目の前で未来が失われて行くのを、どうする事も出来ないの。 「進退窮まったって、このことね」 スピアが負傷した左腕を押さえ、崩れるように床に座り込んだ。戦闘服が裂け、うっすらと血に染まっている。ズキリと走る痛みに思わず顔をしかめる。 さっきまでは何ともなかったのに、急にうずいてきちゃって。 スピアの言う通り、彼女たちは前進を阻まれただけでなく、迂回することも後退することも出来なかった。 前後左右どちらの方向を向いても、巨大な円形の装甲シャッターが立ちはだかっていた。 誰もいまさら脱出など考えてはいなかった。 が、他の手段でダミアの中枢指令室に行こうにも、もう道がない。 無人要塞の金属ダクトの檻に、完全に閉じ込められている。 「せっかくここまで来たってのに!」 アミィは半分涙声だ。 こんなに近くまで入れといて、いまさらダメなんてそんなのあり?! 彼女たちの携行しているサブマシンガン、アサルトライフル、グレネード…何の役にもたたない。ストラグルダイバーがあったとしてもこの壁が破れるかどうか。 所詮は無駄なあがきだったというの。 シルディーは唇をかんだ。 「もう、こうするしかないわ」 今まで黙っていたキャティの声に、三人は振り返った。 「キャティ!!」 アミィは彼女の姿を見て絶句した。 スピアの声がダクトの中に響いた。 「何をするつもりなの?!」 キャティの右手には、銀色の小さなシリンダーが握られていた。 ハンドグレネード。 三人の視線の中をゆっくりと進み出ると、キャティは装甲シャッターを背にして立った。 「私の身体にはマイクロプラズマ炉があるわ。このブロック全体を破壊するくらいのエネルギーは有している」 自爆。 私はアンドロイドだ。 私の活動のためのエネルギーを、一気に解放すれば、この壁くらいは簡単に破れる。このダミアの一画を破壊させられるだろう。 けれど。 伸ばした手にハンドグレネードを握ったまま、顔を背けるようにして、冷たく輝くフロアに視線おとした。 「みんなを、こんなところまで連れてきてしまって…」 私は、ソルノイドの未来のために造られたのだもの、かまわないわ。 けれど、みんなは、シルディー、スピア、アミィは…。 今まで私を信じて行動をともにしてくれた仲間を、巻き添えにしなければならないなんて。 事実を打ち明けられても動ぜず、協力を誓ってくれたシルディー。 真実の重さを気にするそぶりも見せずに、いつも真っ先に行動してくれたスピア。 小さな体にあふれる元気で、常に笑顔で励ましてくれたアミィ。 もうみんなの顔を見ることが出来ない。 でも…。 ふと顔をあげると、目の前にシルディーがいた。 なぜだか、彼女の顔が滲んで見える。 シルディーはそっと微笑むと、キャティの右手に手のひらをかぶせた。 「いいえ、みんな、自分の意志で来たのよ」 優しい否定の言葉に合わせて、ハンドグレネードはすり抜けるようにシルディーの手に移っていた。 「それに、この扉が破れたとしても、この向こうにこれと同じ物がもう5枚あるわ」 シルディーは人差し指でキャティの涙をぬぐうと、彼女を抱き寄せた。 倒れ込むように、シルディーに身を預けるキャティ。 キャティの柔らかな髪をすきながら、シルディーは、今一度装甲シャッターを見上げた。 「もう、いいわ…」 シルディーはシャッターなど見てはいなかった。 ただ、自分の顔を見られたくなかった。 絶望してしまった、悲しみの表情をキャティたちに見せたくなかった。 黙って運命を受け入れるなんて、我慢がならなかった。 だからここまでやって来たのだ。 それなのに、手も足も出ずに破局を迎えるしか無いなんて…。 突然、彼女たちを閉じ込めているダクト全体が大きく振動した。よろけながら、4人は顔を見合わせた。 「砲口が開いたんだわ、あと3分しかない!」 シルディーは左腕のクロノメーターに目をやった。 ついに第9星系の死刑執行が開始される。 すべての可能性が無くなってしまう。 「何、あの音?」 スピアがもうひとつの異変に気付いた。 徐々に静まっていく要塞の作動音と入れ替わるように、何かの鳴動が大きくなりつつあった。 接近してくる。 後方からだ。 サブマシンガンを手にとり、銃口をシャッターに向けるアミィ。 スピアも左手で銃を掴み立ち上がった。 今になって、侵入者を排除しようと、警備システムが作動しだしたのか。 装甲シャッターのすぐ向こうだ。 一瞬、鳴動が消えた。 身構える4人。 次の瞬間、4人のいる空間はすさまじい金属音に溢れ返った。 銃を手にしたまま、思わずヘッドカムの上から両耳を押さえる。 再び静寂。 何がおこったのか? 視線が金属壁の上をさまよう。 事態を理解するのに、ほんのコンマ何秒かのタイムラグ。 装甲シャッターが倒れてくる! 床に激突し、轟音。 シルディーたちは、反射的に後方へとびすさった。 白煙が漂い、金属が焼け焦げた異臭が鼻をつく。 つづいて、大きな黒い影がシルディーたちの目の前にのっそりと現れた。 輪郭がシルエットとして浮かびあがり、シルエットは実像に反転した。 実像の正体に気づいて、シルディーは引き込まれるように2,3歩まえに進み出ていた。 まさか…。 だが、誰も見間違うはずがない。 ブロンクス! 対艦戦闘機兵、ブロンクスだ。 4人の目の前でフロントハッチが開く。 パイロットが、ヒョイと顔を出した。 銃を構える事も忘れて立ちつくしている4人を見つけて、そのパイロットはニヤリと笑った。 「まだこんな所にいたのか。途中で捨ててあったスーツを見た時は、もうオシャカになっちまったかと思ったぜ」 ちょっとついでに寄ってみた,そんな軽い感じの声だった。 その声を聞いても、姿を自分の目で確かめてもまだ信じられない気分だった。 でも、彼女はいる。 ここにいる。 来てくれたのだ。 「ルフィー…」 名前を呼んだきり、シルディーにはそのあとに続けるべき言葉が見つからない。 「きっと来てくれると思っていたわ」 立ち直りの早いスピアは、傷の痛みも忘れてブロンクスに駆け寄った。 飛び上がらんばかりに喜んでいるアミィ。 キャティは、涙に滲んで何も見えなくなりそうな瞳を拭った。 ルフィーはシルディー、キャティ、スピア、アミィにゆっくり視線を巡らせ、もう一度笑みを、それこそまさしく会心の笑みを見せた。 そして正面、シルディーたちの前方をふさいでいた装甲シャッターを、キッと見据える。 「そこを、どいてな!!」 ルフィーは怒鳴った。 ブロンクスの全火器が、立ちはだかる障壁に向けてピタリと照準を定めた。 あきらめるのは、まだ早い。 主役登場、ゲームはこれからが本番だぜ!! ◇ ◇ ◇ 「スターフロント!」 が流れる。 全てが浄化される一瞬。この時を待っていたのだ。 なんという快感。 まさに、エンターテイメントならではのだいご味。クサイとか言う愚か者は消えてくれ。 醗酵しているのと腐敗しているのは根本的に違うのだ!! この時の彼女たちの気持ちを思いやって欲しい。 絶望からの一瞬の逆転劇。 しかも、単なる偶然ではない。 判ってくれるだろうとは思っていた。 しかし、強制も依頼もなしに、その人物が、もっとも必要とする時に助けに来てくれたのだ。 感無量であろう。 そして、「スターフロント!」!。 この曲が、たとえいっときであろうと、勝利の昂揚感と共に流れる時を私は待っていたのだ。 ここに物語は最高の瞬間を迎えた。 あえて、そう言い切りたい。 |
|
|
|
|
| TOP / CONTENTS | BACK / 04 / NEXT |