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 かすかにたなびくガスが排気口に吸い込まれていった。
 目の前には無傷の装甲シャッターが鈍く輝いていた。
 マシンガンの銃弾はもちろん、ランチャーから放たれた幾発ものグレネードでも、かすり傷すらついていない。
 ただの複合合金の壁が、4人の今までの努力をせせら笑っていた。
 幾重もの光子弾の弾幕をかいくぐり、迷路のような排気ダクト、浮かぶ無数の自動攻撃弾、トラップゾーンを突破してきたというのに。あと一歩という所で、厚さ数十ミリのたった一枚の金属が行く手をふさいでいるのだ。
 静寂を破って鈍い音が4人の耳をうった。
 ダラリと下げたシルディーの右手から、マシンガンが滑り落ちたのだ。
「あとたった数ブロックだというのに…。これも運命だというの」
 装甲シャッターの前に立ったシルディーは、目の前の壁にこぶしを叩きつけた。
 あと一歩なのに。
 このまま恒星破壊砲が発射され、重力の束縛から解き放たれたプラズマの奔流にティラーが、第9星系が飲み込まれていくのを、手をこまねいて待つしかないの。
 目の前で未来が失われて行くのを、どうする事も出来ないの。
「進退窮まったって、このことね」
 スピアが負傷した左腕を押さえ、崩れるように床に座り込んだ。戦闘服が裂け、うっすらと血に染まっている。ズキリと走る痛みに思わず顔をしかめる。
 さっきまでは何ともなかったのに、急にうずいてきちゃって。
 スピアの言う通り、彼女たちは前進を阻まれただけでなく、迂回することも後退することも出来なかった。
 前後左右どちらの方向を向いても、巨大な円形の装甲シャッターが立ちはだかっていた。
 誰もいまさら脱出など考えてはいなかった。
 が、他の手段でダミアの中枢指令室に行こうにも、もう道がない。
 無人要塞の金属ダクトの檻に、完全に閉じ込められている。
「せっかくここまで来たってのに!」
 アミィは半分涙声だ。
 こんなに近くまで入れといて、いまさらダメなんてそんなのあり?!
 彼女たちの携行しているサブマシンガン、アサルトライフル、グレネード…何の役にもたたない。ストラグルダイバーがあったとしてもこの壁が破れるかどうか。
 所詮は無駄なあがきだったというの。
 シルディーは唇をかんだ。

「もう、こうするしかないわ」
 今まで黙っていたキャティの声に、三人は振り返った。
「キャティ!!」
 アミィは彼女の姿を見て絶句した。
 スピアの声がダクトの中に響いた。
「何をするつもりなの?!」
 キャティの右手には、銀色の小さなシリンダーが握られていた。

 ハンドグレネード。
 三人の視線の中をゆっくりと進み出ると、キャティは装甲シャッターを背にして立った。
「私の身体にはマイクロプラズマ炉があるわ。このブロック全体を破壊するくらいのエネルギーは有している」

 自爆。
 私はアンドロイドだ。
 私の活動のためのエネルギーを、一気に解放すれば、この壁くらいは簡単に破れる。このダミアの一画を破壊させられるだろう。
 けれど。
 伸ばした手にハンドグレネードを握ったまま、顔を背けるようにして、冷たく輝くフロアに視線おとした。
「みんなを、こんなところまで連れてきてしまって…」
 私は、ソルノイドの未来のために造られたのだもの、かまわないわ。
 けれど、みんなは、シルディー、スピア、アミィは…。
 今まで私を信じて行動をともにしてくれた仲間を、巻き添えにしなければならないなんて。
 事実を打ち明けられても動ぜず、協力を誓ってくれたシルディー。
 真実の重さを気にするそぶりも見せずに、いつも真っ先に行動してくれたスピア。
 小さな体にあふれる元気で、常に笑顔で励ましてくれたアミィ。
 もうみんなの顔を見ることが出来ない。
 でも…。

 ふと顔をあげると、目の前にシルディーがいた。
 なぜだか、彼女の顔が滲んで見える。
 シルディーはそっと微笑むと、キャティの右手に手のひらをかぶせた。
「いいえ、みんな、自分の意志で来たのよ」
 優しい否定の言葉に合わせて、ハンドグレネードはすり抜けるようにシルディーの手に移っていた。
「それに、この扉が破れたとしても、この向こうにこれと同じ物がもう5枚あるわ」
 シルディーは人差し指でキャティの涙をぬぐうと、彼女を抱き寄せた。
 倒れ込むように、シルディーに身を預けるキャティ。
 キャティの柔らかな髪をすきながら、シルディーは、今一度装甲シャッターを見上げた。
「もう、いいわ…」
 シルディーはシャッターなど見てはいなかった。
 ただ、自分の顔を見られたくなかった。
 絶望してしまった、悲しみの表情をキャティたちに見せたくなかった。
 黙って運命を受け入れるなんて、我慢がならなかった。
 だからここまでやって来たのだ。
 それなのに、手も足も出ずに破局を迎えるしか無いなんて…。

 突然、彼女たちを閉じ込めているダクト全体が大きく振動した。よろけながら、4人は顔を見合わせた。
「砲口が開いたんだわ、あと3分しかない!」
 シルディーは左腕のクロノメーターに目をやった。
 ついに第9星系の死刑執行が開始される。
 すべての可能性が無くなってしまう。
「何、あの音?」
 スピアがもうひとつの異変に気付いた。
 徐々に静まっていく要塞の作動音と入れ替わるように、何かの鳴動が大きくなりつつあった。
 接近してくる。
 後方からだ。
 サブマシンガンを手にとり、銃口をシャッターに向けるアミィ。
 スピアも左手で銃を掴み立ち上がった。
 今になって、侵入者を排除しようと、警備システムが作動しだしたのか。
 装甲シャッターのすぐ向こうだ。
 一瞬、鳴動が消えた。
 身構える4人。
 次の瞬間、4人のいる空間はすさまじい金属音に溢れ返った。
 銃を手にしたまま、思わずヘッドカムの上から両耳を押さえる。
 再び静寂。
 何がおこったのか? 視線が金属壁の上をさまよう。
 事態を理解するのに、ほんのコンマ何秒かのタイムラグ。
 装甲シャッターが倒れてくる!
 床に激突し、轟音。
 シルディーたちは、反射的に後方へとびすさった。
 白煙が漂い、金属が焼け焦げた異臭が鼻をつく。
 つづいて、大きな黒い影がシルディーたちの目の前にのっそりと現れた。
 輪郭がシルエットとして浮かびあがり、シルエットは実像に反転した。
 実像の正体に気づいて、シルディーは引き込まれるように2,3歩まえに進み出ていた。

 まさか…。
 だが、誰も見間違うはずがない。
 ブロンクス!
 対艦戦闘機兵、ブロンクスだ。
 4人の目の前でフロントハッチが開く。
 パイロットが、ヒョイと顔を出した。
 銃を構える事も忘れて立ちつくしている4人を見つけて、そのパイロットはニヤリと笑った。
「まだこんな所にいたのか。途中で捨ててあったスーツを見た時は、もうオシャカになっちまったかと思ったぜ」
 ちょっとついでに寄ってみた,そんな軽い感じの声だった。
 その声を聞いても、姿を自分の目で確かめてもまだ信じられない気分だった。
 でも、彼女はいる。
 ここにいる。
 来てくれたのだ。
「ルフィー…」
 名前を呼んだきり、シルディーにはそのあとに続けるべき言葉が見つからない。
「きっと来てくれると思っていたわ」
 立ち直りの早いスピアは、傷の痛みも忘れてブロンクスに駆け寄った。
 飛び上がらんばかりに喜んでいるアミィ。
 キャティは、涙に滲んで何も見えなくなりそうな瞳を拭った。
 ルフィーはシルディー、キャティ、スピア、アミィにゆっくり視線を巡らせ、もう一度笑みを、それこそまさしく会心の笑みを見せた。
 そして正面、シルディーたちの前方をふさいでいた装甲シャッターを、キッと見据える。
「そこを、どいてな!!」
 ルフィーは怒鳴った。
 ブロンクスの全火器が、立ちはだかる障壁に向けてピタリと照準を定めた。
 あきらめるのは、まだ早い。
 主役登場、ゲームはこれからが本番だぜ!!

    ◇     ◇     ◇

 「スターフロント!」 が流れる。
 全てが浄化される一瞬。この時を待っていたのだ。
 なんという快感。
 まさに、エンターテイメントならではのだいご味。クサイとか言う愚か者は消えてくれ。
 醗酵しているのと腐敗しているのは根本的に違うのだ!!
 この時の彼女たちの気持ちを思いやって欲しい。
 絶望からの一瞬の逆転劇。
 しかも、単なる偶然ではない。
 判ってくれるだろうとは思っていた。
 しかし、強制も依頼もなしに、その人物が、もっとも必要とする時に助けに来てくれたのだ。
 感無量であろう。
 そして、「スターフロント!」!。
 この曲が、たとえいっときであろうと、勝利の昂揚感と共に流れる時を私は待っていたのだ。
 ここに物語は最高の瞬間を迎えた。
 あえて、そう言い切りたい。



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