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  6.RED EYES


 さて、後編である。
 異様にテンションの高まる第6話だ。
 息もつかせずラストまで一気に見せる。
 この回でプリスに惚れなおしたという感じだ。
 で、注文はといえば、また重箱の隅ということになる。

 ラルゴについて理解できないことが多い。
 整理されていないというか。当然出していい情報まで出し惜しみしているようだ。
 正体がどうのこうの、シリアとのつながりがどうだこうだ、ではない。
 それは自分で 「妄想」 しなければいけないことで、与えられるべき情報じゃない。
 GPCCのフリント失脚後、ラルゴはその権力を一手に握った、らしい。
 変ではないか、ラルゴはフリントによってゲノム・タワーから守られていたのではないのか? フリントは 『危険を冒してまでタワーやADポリスの追及からかくまっている』 とはっきり言っている。そんなことをしたら自分の存在を知られてしまうではないか。「ジェナロス」 事件まではフリントが好き勝手をやっていたわけで、一端発覚したからにはゲノムとしても管理体制を強化するはず。GPCCを自由に出来るとは思えない。
 逆に、GPCCを利用しづらくなるはずだ。
 すでに、偽ナイトセイバーズを演じた部下となるブーマも準備ができていたのだろうし、「ジェナロス」 事件もラルゴが手を回していたのだろうから、表面には出ないですむぶんフリントの裏に隠れていた方が仕事が楽だったと思える。アンリをミリー・ジャクソンとしてタワーに送り込むことくらいは何でもないはずだ。ま、その際に、台詞などから推測するとタワーの保安部長バウアーを利用したらしいから、所長のような表のポストを使えた方がよかったのかもしれないが。
 もうひとつ。
 タワーとADポリスの両方から 『追及』 されていたラルゴを、どうしてクインシーがまったく知らないのだろう。不自然ではないか。ゲノムタワー最上階での二人の対決では、ほのめかしさえしなかった。正体ではないにしろ、何らかの情報は持っていて当然だろう。その上で、余裕で交渉の場に臨んだつもりのクインシーだったが、相手は予想を上回る存在だった。USSDも開発を断念した超小型衛星兵器同調システムを手にしていたのだ。…となるのが自然だと思う。
 何故ラルゴが追及される存在だったのか。
 どうして、この点についてまったく説明がないのか。
 ささいな点ではあるが、気になる。

 気になるといえば、ラルゴの言葉だ。
『シリア、私は知っている。君も私の同類だということを。なぜなら…』
 これだ。
 あとのシリアの台詞とあわせて色々なことが考えられる。
 だけど、まだそれは言わない。
 ただ一つだけ、これだけは言っておく。
 「シリア=ブーマ」 説は否定する。
 絶対、拒絶だ。いまのところデータ的に不十分だし、心情的に認めたくない。ここでは、いくつかある中から論拠をひとつだけ挙げるだけにしておこう。
 「ブーマは成長するのか」
 それだけだ。

 シリアは振り返る。
 ビルの群れの頂上をかすめて一直線に這い上がってくる光が目を射た。
 足もとから彼方まで、視界を埋めているのはビル群れのシルエットだ。
 下界にふたをしていた靄が消え、建物の鋭い輪郭が形を表そうとしている。
 朝が訪れたのだ。
 シリア、プリス、リンナ、ネネ。
 しばらく無言で4人のハードスーツは淡い陽を浴びて立っていた。
 戦いは終わったのだ。少なくとも今日のところは。
「ねえ、あいつ、死んじゃったかなぁ」
 オープンしたフェイスシールドの下から不安そうな表情でネネが訊いた。
「この高さから落ちたんですもの…」
 リンナの声に自信はない。自分に強いて言い聞かせている、シリアにもプリスにもそう聞こえた。眼下には、まだ陽の光が射し込まれてない暗がりが、タワーをとりまいてうずくまっている。その中にヤツは飲み込まれていった。たとえネネのスーツの機能をフルに使おうとも何も見えはしない。
 プリスにも自信はなかった。
 口を開くのもおっくうだった。顔には出さないがもう立っているのがやっと。
 全身が泥でできているように重かった。わずかに首を振ってみせた。
 苦しかったこの一夜の戦いの結末を本当に知りたいのならば、すぐにこのゲノムタワーの外壁に沿って降り、あの 「怪物」 の死体を、残骸を確認すれば良い。そうすべきだ。
 だが、誰も言い出さなかった。
 怖かったのだ。
 また新たな脅威を目にするのが。
 いつもなら確実を期したシリアだが、彼女もあえてそうしようとしなかった。
 ギリギリの戦いだった。プリスにも、リンナにも、ネネにもこれ以上を要求するわけにはいかない。形の上だけでも、今日は勝利で終わらせなければならないのだ。
 かすかな爆音に上空を振り仰ぐ。
 マッキーのスカイキャリーが降下しようとしている。
 休息が必要だ。
 シリアでさえもそれを欲していた。
 まだそれくらいの猶予はあるはず。
 3つのランディングギアを突きだし、ブーマの残骸が散らばる最上階のフラットにスカイキャリーが着地した。後部ランプが4人を迎えいれようと開く。
「さあ、行くわよ」
 3人はすぐさまランプを登った。心なしかプリスたちの足取りは重い。
 いつかは…。
 一瞬、いままで心に占めていたものとは違う陰りがシリアの脳裏に落ちた。
 結局、最後は私ひとりの戦いなのだ。
 シリアもランプを登った。
 プリスたちのあとに続いた。
 思った。
 もうピリオドが近付いているのかもしれない。
 けれど、引き返しはしない。
 シリアはランプの途中で今一度振り返った。

“かよわい人間には、これ以上の恐怖は必要ないのよ。ブライアン・J・メイスン…”

 地平には濁った大気を通して太陽が低く輝いていた。
 フェイスシールドを閉じると、シリアはスカイキャリーの中に姿を消した。
 キャリーが点のように小さく空に溶け込んだ頃、ADポリスの一隊がようやくゲノムタワーに到着する。あれこれと法律を盾に邪魔をするゲノムの警備陣をかわして、やっとたどりついた現場には、徹底した破壊の跡に混ざって一つのサインが残されていた。
 そのサインは、こう読めた。


「KNIGHT SABERS」





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