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§ プリス いつの間にかコンテナハウスの中に陽が射し込んでいた。 傍らにヘルメットが転がっている。 プリスはもたれていたクッションから立ち上がった。部屋を斜めによぎる淡い光線が反対側のマットレスにうずくまっている少女の上に落ちていた。 長い夜だった。 眠ったのか、それとも一晩中起きていたのか、はっきりしない。 ナムという少女をひろった。 それは確かだった。 その彼女が語った。 シルヴィーやアンリのことをプリスは喋ろうとしなかった。沈黙とすすり泣きの後、黙り続けるプリスに向かってナムが語った。 宇宙ステーション “ジェナロス” からの脱出行。シルヴィー、アンリ、ナム。そしてメグ、ルウという5人。失敗し、取り残されたナムたち。意識を取り戻した時、たった一人隔離されてステーションにいたという。 『なぜ、殺されてしまわなかったのか、わかりません』 ナムは抱えた膝に小さな顎をのせてぽつりと呟いた。 コンパートメントに押し込められたままの日々が続いた。 そして、突然、地球へ降りろという指示が出た。彼女につけられた監視のブーマは、民間シャトルに乗り込んだ時には姿を消していた。スチュワーデスから手渡されたメッセージカードにはある場所と、仲間に会えるということだけが記されていた。 『だから、シルヴィーやアンリが、と思ったんです』 第一海上空港に降りると墜落事件の影響で空港は大混乱のさなかだった。どうにか空港を離れて都心へ向かった。その途中、二人の男に襲われた。無理やり無人タクシーから降ろされて連れ去られようとしたところへ、別の何者かが再度彼女たちを襲った。 『そこに、オレが出くわしたわけか』 ナムは黙って頷いた。 プリスが語るべき番だった。 しかし、何をどのようにこの少女に説明したらいいのかプリスには分からなかった。 互いにフロアに置いたマットレスに腰を降ろしたまま、二人の間に再度の沈黙が続いた。ただ時間だけが過ぎた。 気づくと弱い冬の陽がコンテナハウスの小さな窓から射し込んでいた。 今、ナムは身体を胎児のように丸めて眠っている。 どうする…。 プリスは問いかけた。 何ができる、おまえに。 シルヴィーのように、アンリのようにさせないために、何ができる。 無かった。 プリスの手の中に答えは無かった。 拳をきつく握り締める。 だが、逃げるわけにはいかない。絶対に、だ。 シリアのペントハウスで、写真の前からは逃げ出すことができた。しかし、もう許されない。プリスには、それが判った。 覚悟を決めた。 「守ってみせるさ、今度こそ」 プリスは自分自身に言い聞かせた。 それしかないだろ。 「…あ、あの…」 声をかけられてプリスは我に返った。 少女はグレーの瞳で見上げていた。流した涙のあとが頬に残っている。 「オレはプリス」 「…プリス、さん」 ナムは覚束ない足取りで立ち上がった。 「私、行きます。助けて下さってありがとうございました。シルヴィーやアンリのこと、教えて下さって…。でも、もうご迷惑かけられません」 「約束の場所へか」 「はい」 「だめだ」 プリスはじっとナムを見つめた。 「なぜ!」 「昨日のやつらが出てくる。きっと」 プリスはナムの前に立ちはだかった。 「最初のやつらにしろ、あとから現れた方にしろ、狙いはおまえなんだ。そんなところへのこのこ出てくのは馬鹿だぜ」 「でも、だったら…! それに…」 反論の言葉は呑み込まれたまま出てこなかった。 「…この街に私が居られる場所なんてどこにも無いんです…」 かわりにナムは弱々しく首を振った。 「とりあえず、ここにいな」 プリスはわずかに唇の端を歪めてみせると、ナムの前に立った。 「指定された場所には、オレが行く」 「どうしてです!?」 「シルヴィーはダチだった」 ふとプリスの表情が変わる。瞳の輝きが曇った。ナムは、一瞬、プリスが泣き出すかと思った。 「それだけだ」 視線をそらし、ぽつりとプリスは答えた。 「教えて下さい、プリスさん。シルヴィーとあなたの間で何があったんですか」 ナムはプリスの両腕を掴んで揺さぶった。 「さっきまでは、訊かないでここを出ようと思いました。どうせ、私たちのことを本当に理解してくれる人間なんていないと思ってましたから。でも、シルヴィーが友達だって…。だから私のことを構うんですか。そんなに、シルヴィーのことを思ってくれていたなら、教えて下さい。何があったのかを。シルヴィーとアンリのことを!」 プリスは顔を背けた。 「許してくれ、今は…」 「お願いです!」 ナムは引き下がらない。 その時、誰かがコンテナハウスのドアを叩いた。プリスとナムは同時にドアの方を振り向く。 “プリス、いる?” 「あ、ああ」 耳になじんだリンナの声。プリスは反射的に応える。 “入ってもいい? ちょっとだけだから” まずいと思った時には、もうドアは半分開かれていた。雪に反射した淡い光が冷たい空気と共にドアから侵入した。 「プリス…?」 ドアの中の光景を目にしてリンナの脚が止まった。 プリスと一緒にいるのは…。 リンナは一目で分かった。グリーンのスーツを纏った少女は、服装は異なっているが明らかに昨夜、シリアに見せられたプリントアウトの中の一人だ。 行方不明の “33S”。 それが何故、プリスのところに? 「あなたは? これ、どういうこと?」 一歩前に出て後ろ手にドアを閉じると、リンナは立ち尽くしている二人に向かって疑問をぶつけた。 「わかんねぇよ!」 プリスは投げやりな声を上げて、その場に腰を落とした。ナムはリンナの視線に射すくめられたように動けないでいる。 「分からないって…?」 「もう、オレを責めるのはやめてくれ!」 立てた片膝を両手で抱え、プリスはリンナを見上げた。 プリスはぐっと唇を噛み締めてリンナを睨んだ。 |
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