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§ USSD 陽が落ちると気温は急速に下がった。 官庁街の人通りはすぐに途絶える。 ときおり、USSD本部の周辺では車と人の動きが慌ただしかった。 「ったい何事なんだ…?」 レオンは受け付けにどっしり座っているUSSDの軍曹をちらりと見た。 1階の受け付けホールでレオンとデーリーは待たされていた。 ファイルを抱えて早脚で通り過ぎる職員もあれば、無人搬送車を後ろに引きつれてホールをよぎっていくものもいる。かなり頻繁に呼び出しの放送まで聞こえてくる。 「本部なんてのは5時までだと思ってたけどな」 「昨日のラボと同じ状況じゃないの」 すぐにでも確かめたいところだが、あえて我慢してアサド大尉が出てくるのを待っている。レオンたちが到着して30分がたつ。受け付けからの連絡はとうにいっているはずなのに、大尉はまだ姿を現さなかった。 「カサイたちの方はどうなってる」 レオンは声をひそめて訊いた。 「1ブロック先で待機してるわ。署ではいつでも4班が応援に出る体勢よ。ヘリの方は、哨戒区域と発進時間をずらして、いつでも最低3個小隊を5分で集められるように手配済み。でも、空振りになったらどうするの?」 にやりとデーリーが笑う。 「来るさ、絶対にな」 レオンが言い切ったところへホールのエレベータドアが開いた。黒い顎髭、アサド大尉が降りてくる。二人はすぐにくたびれたソファーを立った。 「待たせてすまない。それで、電話で話せない用件というのは? 今問題が起きていてね。できればすぐに戻りたいんだが」 どちらが説明してくれるのかというように、アサドは交互に二人の顔を見た。 「ネットワークに繋がっているコンピュータの異常ですね」 デーリーがいきなり問題が何かを指摘した。アサドは目を丸くする。 「どうしてそれを…」 「昨日のラボと同じことが起こっているんです」 「同じこと…?」 アサドはレオンの言葉をそのまま繰り返した。 「捜査の結果分かったんですよ。昨日は解析ラボのコンピュータに紛れて混乱を起こしていたデータが、今度はUSSDの、防空宇宙センターへ送り込まれたことが。そいつが、コンピュータに異常を引き起こすだけならまだしも、さらにブーマを呼び寄せるらし、」 「ま、待ってくれ」 アサドは手を上げてデーリーの言葉を遮る。 「するとブーマがここを襲撃するというのか? 昨日のように?」 「さすが理解が早い。1ブロック先にADPの戦闘班を3個小隊、待機させてあります。すぐに警備体勢をとらせたいので、敷地内へ展開の許可を」 レオンがアサドのすぐ目の前に立った。 「しかし…。それは無理だよ、軍の中にADPを入れるのは…。すぐにという訳でもあるまいし、第一、証拠がなければ」 「時間がないんです。じゃあ、とにかく警備責任者に知らせて警戒体勢を取って下さい。たかがブーマだと甘くみないで下さいよ、C系列のブーマに襲撃されて泣きを見るのはそっちなんですから。俺たちは敷地の外で防備を固めますから」 くるりと背を向けるレオン。その腕をアサドが掴んだ。 「わ、わかった。上にかけあってみる。だが、ADPを中に入れるには協力が必要だ。ちょっと一緒に来てくれ!」 「いいですとも」 レオンはデーリーと視線を交わし、にやりと笑った。 「おまえは外に出て、指揮の方、頼む。俺はお偉いさんところで説明してくる」 「了解、がんばって説得してね」 デーリーはウインクを一つ放つと、ホールの外へと走った。アサドとレオンの二人は3階の調査室へ向かった。 特殊作業車は今度も現れていた。 USSD本部から2ブロックほど離れた路上に駐車していた。 今夜も “回線点検作業中” を示すイエローのプレートを前後に並べている。 「回線閉鎖準備完了」 「こちらセンター。ポジションを知らせろ、各車」 “トランスポーター1、所定位置につきました” “トランスポーター2、準備完了” “3、準備完了しました” 作業室内に設けられたコンソールに次々に連絡が入る、3シートずつ、2列に並んだコンソールのさらに後ろからランドールはその様子を見つめていた。 「部長、ブーマの展開終了してます」 オペレータが肩越しに振り返った。 肱掛けを一定のリズムで叩いていたランドールの指がぴたりと止まった。 「よし」 これで決まる。 ランドールは思った。 3号機が侵入して、戻ればそれだけでいい。1、2号機やC系列ブーマなどどうにでもなる。問題は3号機がシステムを回収できるか、それだけだ。 「作戦開始だ」 敷地内の3カ所からブーマは侵入した。 南に面した正門を4機のC系列ブーマが破る。 同時に東側壁の中央部を2機のC系列、そしてアラクネの試作1号機が乗り越えた。やや遅れて南西からはフェンスを爆破して4機のC系列ブーマと試作2号機が突入した。管理システムの異常に加えて起こった突然の戦闘に、USSDは一挙に混乱状態に陥った。 「いったい何が起こってるんだ?! こっちは調査部だ」 いきなり鳴り出した警報と建物を揺るがす震動、爆発音に中佐の階級章をつけた男がインターコムに怒鳴っている。アサド大尉の上司だ。 その様子に舌打ちしながら、レオンはハンディコミュニケータでデーリーを呼んだ。 「状況は?」 “正門、東、それと南西。3方からブーマが突っ込んだわ。全部が本部ビルに向かってる。昨日と違ってデカブツがいる。おかげで秘密兵器が使えるわ” デーリーの声を訊いて、中佐とアサド大尉がレオンを見た。何か言いだしそうなところを片手を上げて黙らせる。 「やばいな。準備がないぜ。展開できるか」 “できるかも何も、USSDの中に入れなきゃ話しになんないでしょ。ヘリは待機中のにも動員かけたわ。5分で、6個小隊が波状攻撃できるわよ” 聞こえたかとでも言いたげに、顔を上げたレオンは中佐を見つめた。 結論は早かった。いくら天下のUSSDとはいえ、本部ビルには管理部門しかない。戦闘ブーマの攻撃を彼らだけで撃退するのは不可能だ。 「許可する、すぐに防御に入ってくれ。大尉、こっちの警備部に伝えるんだ。長官には、私がやる!」 「はっ」 「許しが出たぞ。俺はしばらくこっちから指示を出す。頼んだからな」 “らーじゃー!” デーリーは短く応えて通信を切った。 「なら、こっちだ!」 すでに連絡を入れ終わった大尉が部屋の入口でレオンを呼んでいる。 「警備部の監視室へ至急来てくれってことだ。案内する! 「いいでしょ」 駆け出そうとしたところへ、どんと大きな衝撃がきた。 レオンは小さく舌打ちした。 「やってくれるぜ」 「急ごう!」 アサド大尉に頷いて、レオンはコミュニケータをポケットに放り込むとショルダーホルスターからクイックシルバーを抜いた。 正面がやばいな。 レオンは思った。 二人はインターコムで長官に事情を説明している中佐を残して部屋を飛び出した。 正面玄関にジェットで突っ込んだ4機のブーマは、ホール受け付けの軍曹と警備の兵士をパルスビームで薙ぎ払う。次の瞬間、2機づつ二手に分かれて左右に延びる廊下へ飛び込む。 2機のうち東から入ったアラクネ、試作1号機は本部ビルへと直進した。8本の長大な脚を動かしながら、あっという間にビルに迫る。1本1本の脚の動きは緩やかだが、その移動速度は脚という機構を使っているとは信じられないほど速い。 脚に支えられた細長いラグビーボールのような胴体が本部ビルの外壁にぶつかる寸前で、1号機は180°向きを変えた。眩惑されそうな脚捌きだ。 迫ってきたADPの装甲車が急停止する。フロントライトが幾本も1号機の胴体に突き刺さった。ライトを浴びた黒い装甲がぬめりと光った。装甲車の背後から1号機めがけて火線が走った。凄まじい火花が装甲の上に弾ける。しかし、大型ブーマが傷ついた様子はない。 その時、いきなり黒い装甲の一部が開いた。ちょうど甲虫が固い外羽根を広げるような格好だった。 同時に白煙が上がる。 空気を切り裂く鋭い悲鳴を上げながら、小型ミサイルが弧を描いて並ぶ装甲車に殺到した。火球が青い装甲車を飲み込んだ。 一方、南西から侵入したアラクネの試作2号機は、長い脚を優雅に操りながら本部ビルに取りついた。脚先の爪を外壁に食い込ませる。そして、2号機はビルをぐんぐん登りだした。 アラクネは背中を完全に空に向けてさらしている。この隙を狙ってワスプ・チームが突入した。30ミリ・チェーンガンが咆哮を発した。窓ガラスが、外装の軽量樹脂パネルがずたずたに千切れ飛ぶ。 しかし、2号機は猛砲火をものともせず外壁を登る。 射撃を終えた先頭のワスプが、大型ブーマとビルをかわすように斜めに急上昇していく。 そこへ2号機のワスプが薬莢をばらまきながら降下した。 瞬間、ブーマの動きが停止したかと思うと、ブーマ全体が一枚の板の上にでも載っていたかのように真横に動いた。スライドした。 「な、なに!」 一瞬前までブーマがいた位置を弾丸が抉る。空しくビルを蜂の巣に変える。 パイロット兼ガンナーは慌ててトリガーを緩める。 反転し、再度攻撃アプローチを取ろうとして機体を左に捻った。カーブの頂点、いったんビルから離れ切ったところで、そのヘリめがけてアラクネから青い光が走った。 夜空を切り裂いてビームが伸びる。 次の瞬間、青いワンマンヘリは空中で粉々に飛び散った。 |
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