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§ ナイトセイバーズ


 USSDに隣接して保険管理局と財務省のビルがある。保険管理局は22階とUSSD本部と同じ高さだが、財務省の本館は60階建てと、辺りを圧して聳える超高層建築だった。
 その屋上にプリスがいた。
 ノーマル・モードにしたバイザーモニターの中で閃光が弾け、白い光線が走る。爆発光が一瞬辺りにちらばる瓦礫を浮かび上がらせる。
 すでにブーマがUSSD内で暴れ出してから10分が過ぎている。
 まだなのか…。
 フェイスシールドを撥ね上げ、眼下を見つめる。
 ヘルメットの中に強風が刺すような冷気を吹きつける。
 しかし、プリスはみじろぎもしなかった。
 プリスはすぐにでも戦いたくてじりじりしていた。
 ネネ、まだかよ。
 プリスは地上300メートルの高みで待ち続ける。
 思い出す。
 出動前、地下のハンガーでシリアが全員を前に注意した。
「…段取りは以上。間違えないで。ブーマを倒すことが目的ではないわ。ブーマを操っている者の正体と目的を知ることが第一。それが依頼された仕事よ」
「ゲノムに決まってるだろ」
 インナースーツを身に着け終えたプリスが不満げにシリアを振り返った。
「これまでの動きではほぼ確実でしょうね」
「だったら!」
「焦らないことよ。今回の仕事は、今までよりもずっと根が深いと思うの。単にゲノムの動きを叩くだけではだめ。彼らの目的を知らないと」
 シリアがやんわりとたしなめた。
「まあ、そんな時間はかからないってば。今夜こそは、このネネちゃんが相手のしっぽを捕まえてあげるから」
 片目を瞑って大きなOKサインを出してみせるネネ。
「期待しているわ」
 シリアは微笑んだ。
「相手も私たちのこと予想して戦力を増強しているはずよ。くれぐれも警戒は怠らないで。リンナ、問題はないわね?」
「ええ。マッキーに調整してもらったし。いつでも大丈夫」
 リンナはプリスの隣に並ぶと、肩に手を置いた。
「しっかり、やりましょ」
「ああ。足手まといになるな」
「じょーだん、身体動かすんなら、私がプロよ」
 全員がインナースーツ姿で揃った。
 ネネ、プリス、リンナ。
 それぞれの表情を確認し、シリアは頷いた。
「ナイトセイバーズ、出動よ」
「了解!」
 3人の声が重なった。
 4体のハードスーツを載せたスカイキャリーが633ビルのポートを離れた。
 1時間程前のことだ。

 追いすがるワンマンヘリをレーザーで蹴散らした試作2号機はUSSD本部の屋上にたどり着いた。胴体各所にとりつけたセンサー・アイがしばらく周囲を探っていたかと思うと、2号機は8本の脚を巧みに動かし、慎重に位置を変えた。
 ほぼ正方形断面をしたビルの中心軸に陣取る。
 そして停止した。
 次の瞬間、黒く塗装された胴体から幾本ものケーブルが放たれた。ケーブルというよりは触手といった方が近いだろうか。胴体とは違い、濃いブルーに輝く触手は屋上のコンクリートを一気に破り、下のフロアに突き抜けた。
 触手の打ち込まれた位置は予め慎重に設定されたものだった。
 先端を守っていた外殻が触手から抜け落ち、短いプローブアンテナが周囲を探る。
 2号機は状況を確認し終えた。
 指令を出す。
 フュージョン機能が活性化された。
 触手は独立した生き物のようにフロアを蠢き始めた。

「シリア、プリス! 屋上のやつ、融合を始めたみたい。本命ね」
 リンナは保険管理局の屋上にいた。
“こっちも見えてるぜ!”
 彼女の声にすぐさまプリスが応じる。
“ネネ?”
 シリアの鋭い声。
“だめ、まだわかんないわ。でも、昨日、マッキーが捕まえたのと全く同じ信号。けど、指令はこの辺からじゃないわよ。ちょっと外れてる”
 ネネはスカイキャリーで付近の通信をモニターしていた。
 そこへバイザーモニターにウインドウが開く。マッキーだ。
“HINETの回線はもう切られてるみたい。ネネさんと同じ信号、捕まえたから協力すれば位置はわかるけど。姉さん?”
 トランスポーターからの連絡はハードスーツの4人それぞれのバイザーモニターに開かれている筈だ。マッキーの役割は地下を這うケーブル、ファイバー網の監視だ。
 シリアの返事があるまで、しばらく時間が空く。
 何を躊躇ってるのかしら。
 リンナは思った。
“マッキー、あなたたち、まだ地下なのね”
“うん。ストリーマの接続は済んでるから、前の部分だけなら出られるよ”
“シリア!”
 プリスが割り込んだ。
“分かったわ。プリス、リンナ、屋上のクモを抑えて。ネネ、マッキーは隠れているやつを見つけること。移動は慎重に。私もクモの相手に回るわ”
“うん、姉さん”
“わーった”
“了解”
 まちまちな返事が交錯する。マッキーのウインドウが閉じる。
「こっちもOK!」
 応えるのと同時にリンナは飛んだ。まっすぐには出ない。USSD本部は斜め右に見て空中を駆ける。そこで、背中のスラスターを全開すると一気に方向転換した。
 正面に黒く光る大型ブーマが迫った。

 リンナが突入しようとしているビルの下方で、大型ブーマがもがいていた。
 片側4本の脚を全て失ってアラクネは動けなかった。残る4本がでたらめに地面をひっかく。
 しかし、わずかに胴体が引きずられるだけだ。
「照準いいわ。どいて!」
“ラジャー、デーリーさん”
 ブーマを囲んでいた4つの青い機体が青白いブラストを吐いて飛び離れる。
 デーリーはすかさずトリガーを絞った。
 凄まじい咆哮が辺りを揺るがす。衝撃がデーリーの全身を叩いた。
 闇が炎をつんざいた。
 もがいていたブーマに火球が炸裂した。
 咆哮はさらに、2度、3度と続いた。
「やったわね」
「すごいですね、こいつ」
 デーリーと戦闘班員がイアーカバーを外しながら立ち上がった。
 大型ブーマはもう動いていない。胴に風穴を開けられて炎を上げていた。
「でかぶつ1機上がりよ、レオン!」
 デーリーはコミュニケーターに怒鳴った。
“もう1機が屋上で不気味なことやってる、次はそっちに回ってくれ! 俺は先に上がるからな”
「りょーかい。はやまんないでよね!」
 一言付け加えてから、ジャケットにコミュニケーターを放り込む。
「負傷者の収容は済んだの?」
「はい、問題無しです」
「ビルの外のブーマは制圧しました!」
 並んでいる二人のもとにボディアーマーを着た戦闘班員が走ってくる。
「ご苦労さん。次は屋上と中…だって。ちょっと面倒よね」
「分解して上げますか?」
「に、してもねぇ…」
 デーリーは部下の戦闘班員と一緒に振り返った。
 そこには場違いなものが据えられていた。
 大型ブーマ、デーリーたちは知らないがアラクネという仮称で呼ばれるゲノムの試作ブーマを葬り去った武器、半自走の120ミリ対戦車砲だ。
 前大戦の遺物といっていい代物だった。
 デーリーがアーミーのモスボール品から借り出してきたのだ。相手が人間タイプのブーマだとしたら物の役には立たないが、目の前に残骸を晒しているようなD系列の大型ブーマになら有効な武器だ。前方にある擱坐した大型ブーマがその証拠だ。8本の脚のうち4本を吹き飛ばされ、胴体には3つの大穴が空いていた。120ミリ徹甲弾の成せる技だ。
「今度は使えると思って、そっちの勘は的中したんだけど…。しょうがないわ、これは置いてく。キリハラ、K-11、2機こっちに回してちょうだい」
「分かりました」
「ロッドとルフィーのグループはK-11の残り2機と協力、ビル内を1階から掃討して」
 デーリーはコミュニケーターに怒鳴ると、隣の男の肩を叩いた。
「残りの戦闘班は、あんたにまかせたからね。ビル周囲を警戒よ」
「了解!」
 ボディアーマー姿がそれぞれの指示通りに暗がりを走った。
 今夜に備えて戦力を増強したのはADPも同様だった。
 前日、手も脚もでなかった状況をもう一度繰り返すわけにはいかない。
 レオンと部長が1時間やりあった結果、装甲兵K-11を8機出せた。デーリーのこねでアーミーから120ミリ以外にも、備蓄されていた40ミリ劣化ウラン弾や高速対戦車ミサイルをかき集めた。その効果は明らかで、USSD本部に侵入したブーマの半数をすでに屠っていた。ただし、装甲兵の被害も大きく、すでに4機が大破し、使用不能になっていた。

「いいんですか?」
「は、はい。一緒に、行きます」
 ナムは助手席に座ってぎこちなく頷いた。
「…会えそうな気がするんです。メグたちに。だから、お願いです」
 そう言って初めてナムはマッキーの瞳を正面から見つめた。
「わかりました」
 にっこり微笑むマッキー。
 データストリーマを載せた後部コンテナを切り離す。補助装備を積んだ前部コンテナだけを引き、二人の乗ったトランスポーターは地下駐車場を滑り出た。



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