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 眩しい…。
 最初に感じたのはまぶたの向こう側の白い輝きだった。
 光を遮ろうとして上げた右手が、こつんと何か固いものに当たる。
 自分の顔に触れない。
 え…?
 …ここは…。
 慌てて体を起こそうとして、ぐいと後ろに引き戻される。シートにハーネスで固定されている自分に気づく。
 そうか、ここはコクピットだっけ。急上昇中に意識をなくしちゃって…。
 パティはようやく思い出した。
 いっけない、計器を確認しなくちゃ。
 眩しさを我慢して目を開き、目の前のパネルを調べようとした。
 そして、それと同時にパティは歓声を上げていた。
 涙滴型を半分にしたような曲面キャノピーの向こうには、真っ青な空があった。一点の曇りもなく澄み切った青が、見渡す限りの視界に広がっていた。前も、上も、左右も…。どこまでも果てしなく続く青だった。
 何も邪魔するもののない透明な空間を、パティを乗せた機体は飛び続けていた。
 空って…。
「知らなかったな。青って、こんな色だったんだ…」
 パティはほっとため息をつく。
 青より、蒼なのかな…。
 学校で習った古い文字のことをパティは思い出した。
“どうやら、意識が戻ったようだな”
 その言葉を待っていたかのように、シルディーの声がヘルメットの耳元で響いた。
“で、…大丈夫か?”
 まるで付け足しのようなシルディーの気遣い方に、パティは吹き出しそうになる。
「大丈夫なわきゃないよ。ひどいんだから、もう。アマチュア相手にあんな、急上昇かけるなんてさ!」
 口元のマイクロマイクに向かい、わざと大げさに怒ったふりをする。
“すまない、それについては、あやまるよ”
 後席からは硬い表情を連想させる声が返ってくる。
「ほんとに、ほんとだよ。悪いって思ってる?」
“ああ、悪かった。謝る”
「じゃあ、許したげるよ」
 ぽん、と応えて、パティはくすりと笑う。
 これで、お約束は、終わりっと…。
 今一度深くため息をつき、パティは自分を包む世界を見た。
 よく目を凝らせば、蒼い世界のずっと下には、わずかに湾曲した白い広がりがある。
 雲。
 突き抜けてきた雲、か…。
 頭上にある真っ白に輝く太陽を受けて、雲も白く光っているようだ。
 下から見上げたときは憂鬱な鉛の蓋みたいだったけどな。
 視線を上げると、その上には成層圏、常に変わらぬ青空がある。
 パティはしばらくそのままでいた。
 飽きもせずに自分をとりまく空を見ていた。



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