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「シルディー?」
 ややあってから、パティは声をかけた。
“聴いている”
「…、いつも触ってるシミュレーターの先には、これがあるんだね」
“どういうことだ?”
 訊き返すシルディーの口調は、パティの質問を面白がっているようだ。
「シミュレーターやって、ソロフライトして、ライセンスを取った先に、まだ、この空が待ってるんだってこと」
“まあ、そうは言えるな”
「そうなんだよね」
 とても重要なことを確認できたかのようにパティは繰り返す。
“で、それがどうかしたのか?”
 シルディーは先を促した。
 わかってるのに、意地悪なヤツ。
 パティは後方を振り返ってシルディーの顔を見てやろうとしたが、そのやり方ではシートの背が邪魔をして、前席から後席のパイロットの姿を目にすることは不可能だ。
 そーか!
 閃いたパティはサイドパネルを探る。目的のスイッチは簡単に見つかる。指先でピアノキー式のスイッチを押し込む。
 正面のパネル、右側のカラーCRTがパイロットの正面画像に変わった。
 前後席間のコミニュケーター画面だ。
 バイザーを上げた飛行ヘルメットの下に、ミラーグラスをかけたシルディーの顔が見えた。
「ずるいなぁ、ずっと人の様子みてたくせに、自分はサングラスで表情隠してるんだから」
“そこは、プロとアマチュアの差だよ”
 シルディーは涼しい顔で笑みを浮かべている。
“それで、続きは?”
「…、いいよ。やめとくから」
“おいおい、拗ねるのはなしだ”
 今度は本当にまずいと思ったらしい。シルディーの口調が変わっている。
「いいの! でもさ、一言だけ、言わせて」
 パティはじっとCRTに映るシルディーの顔を見つめた。
“ああ”
「ありがと」
“あ、…ああ”
 一瞬、ぽかんと口をひらいたままのシルディーの顔に、さっと赤みがさした。
 小さな画面だが、パティにもそれははっきりと分かった。
「じゃ、そういうことで」
 視線を画面から、キャノピーの向こう側へと移す。
 蒼い広がりは水平飛行を続ける二人の機体の行く手にどこまでも広がっている。
 ありがと、ここまで連れてきてくれて。
 今度は、絶対、自分の力で来るからね。
 パティはそう心に決めた。

 二人を乗せたスチールブルーのジェットは、そのあと1時間ばかり体験飛行を終え、広報部のカメラマンたちが待ち受けるベースに着陸した。そのころには、天候も回復に転じ、雲の切れ間から眩しい夏の日差しがのぞきだしており、やきもきしていた広報主任を喜ばせた。

 シルディーが、パティのソロフライトの合格の知らせを受けたのは、それからきっかり10日後のことだった。



(「ストラタ・ブルー」 END)



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