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§ 緊迫 キャティの話が終わった。 星系破壊兵器、恒星破壊砲の開発と、ソルノイド親衛隊とパラノイド親衛隊の間に締結された極秘協定によって実施された 『種族融合計画』、ルフィーとエルザが乗り組んだスターリーフがたまたま標的艦になったこと、キャティたちがその “成果” の回収任務についていたこと。そして、マーサスで計画に反対するグループに奪われた恒星破壊兵器実験艦のこと。 要点だけの簡潔な説明だったが、ルフィーとエルザに与えた衝撃の重さには変わりはなかった。 しばらくルフィーも、エルザも口を開かなかった。 ややあってルフィーが顔をそむけ、吐き捨てるように言った。 「 『種族融合計画』 ? そんな計画を成功させるにアコンカグヤ艦隊は、スターリーフは犠牲になったというのか。第9星系遠征作戦は、そのために立案されたとでもいうのか…」 「いえ、違います…」 キャティは目を伏せた。 「計画したわけではないんです。この作戦にぶつかったのは偶然です。信じて下さい。それよりも、今は一刻も早く “ウルプフランツェ” のことをブリッジに知らせて手をうたないと、」 「何をそんなに急ぐ必要があるんだよ!」 「あるのよ」 エルザがぼそりと呟いた。 「無人の恒星破壊砲が奪われたのは、その必要があったからだわ。何処かの恒星系の攻撃が指令されているはずよ。“ウルプフランツェ” は第9星系に出現した。つまり、指令された目標はここだったというわけ」 「だから?」 ルフィーがいらだたしげに説明を促す。 エルザは脇のベッドに腰を下ろすと、膝に両肱を置いて祈るように指を組んだ。 「私たちが何もしなければ、恒星破壊砲の使用で第9星系は跡形もなく消滅する。第9星系に対して、私たちの恒星破壊兵器が使用されたことをパラノイドが知れば、ヤツらも必ず報復に出てくるわ。本当はなんのために恒星破壊砲を使用したのかにはまったく関係無しにね。パラノイドの恒星破壊兵器で何処かの星系がまた消える。それに対して、私たちの報復攻撃」 言葉を切ると、エルザはもの問いた気な視線をキャティに投げかけた。 キャティは震えるように小さく頷いた。 「そうなってしまったら、もう止めようがありません。恒星破壊砲による攻撃の応酬によって、両者はこの宇宙から完全に消え去ってしまうでしょう」 キャティがエルザの代わりに結論を付け加えた。 「馬鹿な…」 ルフィーには信じられなかった。 「俺たちは勝つために闘っているんだ、そんな無意味な何も残らない様な戦いを続けるわけが…」 つかの間の沈黙を、断続的に鳴り続ける警報音が埋めた。 「事実なんです。この戦争は何かを得るための戦争でも、守るための戦争でもないんです。もうただ互いに相手を滅ぼすための戦いになってしまったんです。恒星破壊兵器の開発が決定された段階で、情報局のシュミレーションが同じ結果をひきだしています。 “相互確証破壊”。 シミュレーションの結果を、スタッフたちは、そう呼びました。互いに相手を全滅させる手段を持つことにより、その脅威と恐怖によって相手との間に均衡を保つ、恒星破壊砲は、本来はそのための兵器なのです。だから、決して恒星破壊砲を、 “ウルプフランツェ” を使わせてはいけないんです!!」 「だったら、どうしたらいいっていうんだ」 求めていた真相は手に入りはしたが、それはルフィーの予想をはるかに越えたものであり、どう対処していいのか手掛かりさえ見つかりそうもなかった。 「何が、『本来はそのための兵器』、だよ!」 ルフィーは半ば途方にくれていた。 いや、それよりも、どうしようもない怒りを感じていた。 「阻止するんです。他の艦の援護が受けられなければ、このカルパート一隻だけでも。ですから、お願いです、協力して下さい!」 キャテイは必死に訴えかけた。 エルザとルフィーは顔を見合わせた。 「出来るのか」 「やるしかないのよ」 しばらくの沈黙の後、エルザは応えた。 連絡艇が着艦し、機体が停止するとほとんど同時にサービス・クルーが駆けよって来た。手狭な巡恒艦の発着艦ベイだ、連絡艇は大型の支援ドロイドに引かれて、すぐさまわきに移動させられる。 デッキ・クルーがサイドハッチを開けると、入れ代わるようにして医療スタッフが飛び込んで来る。ラビィたちと言葉を交わす時間も惜しむかのように軽く会釈しただけで後席のフローエの様態を調べ、ストレッチャーに移しにかかった。 「ギリギリセーフね。応急処置が適確だったから、どうにかもつわ」 別れ際に親衛隊員がそう笑いかけた。ストレッチャーに載せた意識不明のフローエと一緒に出ていくまでアッという間だった。 医療スタッフのあとについて二人は連絡艇を降りた。誰もラビィたちに気がつかないようだ。二人の立っている周囲だけを取り残して、残りのデッキではクルーたちが慌ただしく動いている。緊張感に満ちた空気が辺りを包んでいた。 滑らかな曲線に包まれた暗灰色の小型の機体が、隣の待機スポットから動きだしていた。ついさっきラビィたちの艇がいた発鑑位置に移動していくのだ。さらに、もう一機がすぐわきで待機中だった。パイロットが乗込み、サービスクルーがラダーを外す。傍らでは補助動力などの支援機材が発艦ベイのフロアの下へ引き込まれる。 「見つけているのね。確認に出るんだわ」 パティがささやいた。 「ええ。でも、今から正体を確かめていたんじゃ間に合わなくなる」 「そこの二人、こっちです」 声の方を振り向くと、親衛隊の兵士がひとり、ラビィたちが降りたばかりの連絡艇の機首をくぐるようにして姿を現わした。 「遅れてすみません。私はケイ、当艦のブリッジ・クルー、情報担当官です。カルパートにようこそ。ここにいると邪魔になりますから、すぐに上にあがって下さい。回りを見て分かっているとは思いますが緊急事態なんです」 細身の親衛隊員は、ラビィ、パティに名乗リ、手を差し出した。 肩と胸に親衛隊、戦略偵察部隊のエンブレムが見えた。 「第9星系遠征隊の巡恒艦スターリーフ所属のラビィ准尉です」 「パティです」 パティが相手の手を握り返した時に、隣から轟音が湧き起こった。 3人がそちらに目をやると、先程の暗灰色の機体がエア・シールドを突き抜けて船外へ飛びだして行くところだった。 「近くにパラノイド艦隊の転移をキャッチしたんです。有人偵察ポッドですよ」 ケイは説明しながら先に立って歩きだした。 「もうひとりの方ですが、彼女はもうメディカル・ルームに入ってます。心配はいりません、うちの医療班は優秀ですから。お二人にはとりあえず予備コンパートメントで休息をとっていただきます」 「ありがとう。でも、そのパラノイド艦隊と思われるの転移のことで、至急話したいことが、」 ラビィはケイの背中に追いつくと切りだした。 ケイはドアの操作パネルの前で立ち止まる。再び巡恒艦の発着艦ベイの空気を震わせ て偵察ポッドが発進していった。 「ラビィ准尉たちの方が先に発見されてたんですか。では、まずブリッジヘ上がっていただいた方がいいですね。こちらでも、さっきの偵察ポッドがすぐに確認してくれるでしょうけれど」 ケイは操作パネルのキーをたたきながら、肩越しに振り返った。 「直接、艦長に話していただければ助かります。それで、転移して来たパラノイド艦隊の規模はどの程度なんでしょう?」 「あれは、パラノイド艦隊ではありません」 「なんですって? じゃあマーサスからの増援艦隊?」 「そんなんじゃないんです、その転移反応は巨人な星系破壊兵器なんです」 二人のじれったいやリ取りに我慢出来ず、パティがラビィとケイの間にわって入った。 「星系破壊兵器?!」 ケイは一瞬、言葉の意味をつかみかねて問い返した。 その前で、下のフロアから上がって来たシャフトがシャッターを開いた。 「第9星系を丸ごと消滅させようと、無人の恒星破壊砲が転移したんです! 早くどうにかしないと手遅れになっちゃうんです!」 「いったい…?」 ケイは、興奮状態のパティと見比べるようにラビィに答えを求めた。 「信じろと言う方が無理かも知れませんが、本当です。説明してる時間もないんです、どうか、すぐに艦長のところへ連れて行って下さい」 今度はラビィがパティにかわって進み出た。 「それは…、」 ケイは、無理だと言おうとして思いとどまった。 恒星破壊砲だの、星系を丸ごと消滅させるだの、他の艦のクルーならば一笑にふしていたかも知れない。しかし、彼女は知っていた。そのような兵器が既に存在していることを。何故なら、このカルパートが、パラノイド側が完成させた恒星破壊兵器の試射をパラノイド領域奥深くへの強行偵察でキャッチした鑑なのだから。 それは、突然だった。 砂粒のような星をちりばめた深い藍色の宇宙に、巨大な白熱する火球が広がったのだ。 最盛期の若い恒星がスーパー・ノヴァと化した姿だった。 それを、ケイたちを乗せたカルパートはわずか数パーセクの距離で観測した。 あの時の光景は、まさしく脳裏に焼き付いたように今も鮮明だった。 しかし、その事実は軍へはもちろん、親衛隊の大部分に対しても秘密になっているはずだ。それを知っているこの二人は何者? ほんの一瞬、ケイは躊躇した。だが、次の瞬間には決断していた。 「わかりました。行きましょう」 ケイはラビィとパティに頷いた。 「本当ですか!」 「ええ、早く乗って下さい」 二人の真剣な表情にはきっとそれだけのわけがある筈よ。 もし間違っていたって、その時は、その時。私のミスにすればいいこと。直感に従うべきだわ。 開きっ放しになっていたシャフトの中にパティとケイが同時にすべりこむ。 「第9星系を狙っているんですか…?」 最初の入力をリセットして、メインブリッジのフロアコードをインプットしながらケイが念を押すように尋ねた。 「はい。もし、阻止できなかったら、もっと恐ろしい事態が起きてしまうんです」 ケイに向かって答えながら、ラビィはその隣に飛び込んだ。 待たされ続けていたシャフトは、3人を乗せると急速度で上昇をはじめた。 「何もスタンナーを使う必要は無かったんじやないの?」 エルザはすぐ前を行くルフィーに、小声で言った。 ◆ 「しょうがないだろ、時間はない、人手はない、こうするしか!」 ルフィーも小声で、しかし鋭く言い返した。 4人はブリッジにつながる通路を足早に進んでいた。先頭をキャティ、そのすぐあとに抜いたままのブラスターを手にしてルフィーが続いていた。 「それに、そいつを一人部屋に残したままでブリッジに乗り込めると思うか?」 「…」 その点を指摘されるとエルザも黙るしかなかった。 傍らにピタリと寄り添うようについて来るポニーを見やった。 今はエルザ自身と同様に、付き添っていた親衛隊の情報局員の制服、ヘルメットをまとっている。ルフィーも偽装のため軍帽をヘルメットにかえている。このために、あれからもう一回、ルフィーのスタンナーが活用された。そして、エルザの収容されていた部屋の隣でもう一人、親衛隊員を気絶させ、ポニーを連れだした時点でスタンナーはお払い箱となり、今ルフィーの手の中にあるブラスターに役割を譲っていた。 「すいません、もう大丈夫ですから」 エルザの視線に、ポニーは小声でこたえた。 とはいうものの、まだ低速代謝剤の影響は抜け切っていない。足元がおぼつかない。 「気にするなよ、俺たちにまかせておけ」 ルフィーが、気楽な調子で肩越しにウィンクを放つ。 「次のコーナーを折れると、ブリッジです」 キャティが低く注意を促した。 艦内が戦闘体勢に入っているので、途中で通常のクルーに出会う気遣いはなかったが、ブリッジの入口には警備のために、陸戦隊員が配置されているはずだ。 ルフィー、エルザ、ポニーは自分たちの服装を再チェックした。ルフィーたちは、ヘルメットのバイザープレートを調整し、防眩モードをきつめに上げる。プレートの色が透明から、濃いブルーに変わり、回りからちょっと見ただけでは顔がわからない。逆にヘルメットを被っているものには、周囲の視界を妨げないようにできている。これで、いかにもキャティに率いられてブリッジに向かう情報局員の一隊らしく装う。ルフィー は手にしたブラスターを腰のホルスターへ放りこんだ。 いまさら、ブラスターにものを言わせてキャティをどうこうする必要はないさ。 このまま、正面からブリッジへ入っていく。 抜くのは、最後の瞬間でいい。 ルフィーは思った。 稚拙な方法ではあるが、これしか無かったのだ。 ブリッジで艦長を説得し、カルパートで恒星破壊兵器の阻止を試みること、なおかつスターリーフから “標本” として回収されたルフィー、エルザ、ポニー自身の安全を確保すること。二つを同時に成し遂げるための方法は。 まだ、キャティは艦長を説得する気でいた。 エルザには、自分たちの安全はともかく、決め手に欠けあまりに乱暴な手段に思えた。 が、他に選択の余地は無く、ルフィーがやるのなら従うつもりだった。 ルフィーは、説得するというキャティの考えは甘いと思っていた。 ポニーが収容されていた部屋で主張した。 説得の時間はない。すぐに主導権を握らなければ、たった4人では何もできない。 そして、決った。 説得は試みる。しかし、少しでも手間取りそうなら、すぐにでも強行策に変える、と。 いきなりこの場に連れ出されたポニーは、自分の目の前で親衛隊員が倒れたあとで、キャティ、ルフィー、エルザが姿を現わした時の混乱が、まだ半ば尾をひいている。 ポ二ーの腕をとるなり、『ラビィたちはどうしたんだ!?』 と尋ねてきたルフィーの声がまだ耳の中に残っていた。ついていくのがやっとのような足取りで、ポニーがエルザに続いてコーナーを曲がると、そこがメインブリッジだった。 入口の両脇に一人ずつ、ボディーアーマーを装着したカルパート所属の陸戦隊員が控えていた。陸戦隊員の無機的な視線が現れた4人の姿をとらえた。右側の一人が、さえぎるように前にでる。 「キャテイ・キャラウェイ大尉です」 差し出したIDにチラリと目をやり、後ろのルフィーたちに吟味するような視線を走らせた。ルフィー、エルザ、ポニーと順に視線を送った。 陸戦隊員の視線がしばらく彼女に注がれたので、ポニーはびくっとした。心臓がのど元までせり上がって来たかと思った。 陸戦隊員は表情をかえず、黙ってキャティに向き直った。 「どうぞ、艦長がお待ちです」 陸戦隊員はうなずくと後ろに下がり、キャティたちに道を開けた。 左側の後ろに控えていた一人が操作パネルにコードを打ち込むと、空圧シリンダのかすかな作動音とともに4人の前で入口が開いた。 4人の耳にメインブリッジの低い電子的なざわめきが流れ込んで来た。 もう、けたたましい警報音はとっくにやんでいた。 キャティを先頭に、4人はブリッジに入った。 ブリッジは不思議なほど静かだった。 |
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