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  キャティ −素顔の潜入者−


 六つの銃口が目の前のシャッターに向けられていた。
 誰ひとりぴくりとも動かない。
 自分の鼓動だけでなく、すぐ左にいるポニーの心臓の鼓動まで聞こえているような気がした。
 スルリとエルザがラビィのわきを離れ、ラミィとパティの間からシャッターの操作パネルの前にたつ。一人一人の顔にさっと視線を走らせるエルザ。
 誰かがゴクリとつばをのみ込んだ、キャティはそう思った。
「いいわね」
 エルザは低く言うと開操作キーを押した。
 エルザがキャティたちとシャッターの間に出て、素早くショットガンを構えるのと、シャッターが開くのとがほとんど同時だった。
 キャティは思わずトリガーを引きそうになった。
 危ういところで思いとどまった。
 何もなかった。ガランとした通路が伸びているだけだった。
 動力区画からの送電が断たれていたため、ところどころに設けられた非常灯がボンヤリとあたりをてらしだしていた。
 肩すかしをくらって、構えていた銃をゆっくりと下ろすキャティたち。
 キャティの目の前で、ラミィが両手でハンドガンを握り締めたままへたりこんでいる。エルザが一歩、二歩前に出、そして急に立ち止まった。
 エルザが立ちつくしているところにラビィがならんだ。
 パティ、ポニー、そしてラミィも何事かと走りよる。
 キャティも行こうとした。が、エルザの足もとを見てその踏み出しかけた脚が止まった。
「どうやら普通の兵士じゃなさそうね」
 ラビィが床を覗きこむようにして言った。
 そこには差渡し2メートルはありそうな巨大な穴が開いていた。
 いや、開けられていたというべきだろう。ほぼ円形のそれは通路の合金樹脂板が押し破られ、下向きにささくれだっていた。
 身を乗り出して半ば穴に顔を突っ込んでいたラミィが、ぴょんと顔をあげた。
「そうよ、怪物よ、怪物! おっどろいたわよね、パティ。ラミィなんかカワイイから食べられちゃうかと思ったわ!!」
 穴のぐるりに集まっているみんなに向かってまくし立てる。
 その輪からキャティは一人離れて立っていた。
 怪物…?
 キャティは今まで心の奥に押し隠していた、正体のない不安が明確な形をとって動き出そうとしているのを感じていた。
 確かにコンタクトは行われるはずだった。けれど、何故それが怪物なの?
 私の役割はコンディションの設定と観察、情報収集。
 すべては種族融合計画、ソルノイドの未来と幸せのためのはず。
 それが何故、『怪物』 なの?

    ◇     ◇     ◇

 キャティ。いつも不安そうで、頼りなげな表情ばかり目立ってしまっていた。OX-11とポニーがゲームをしている場に現れた時の笑顔が一番ホッとさせてくれる感じ。
 プロフェッショナルなポーカーフェイスの工作員だったらよかったのだろう。けれどキャティが工作員として選ばれたのは、まさにその反対の性格故だし(この辺は 「ブルーシスター」 参照ね)、二面性というのはキャティには似合わない。種族融合計画に投入されたのが悲劇というしかない(責任者出てこい!)。
 エルザがモンスターに襲われた時、何があったのかラビィに問い詰められても、ひとっことも言い返せない。
 『わかりません。』 と首を左右に振ることしか出来ないキャティ。
 言い訳すら出来ないのだもの。
 しゃべれば、自分の知っているすべてをしゃべってしまいそうで…。
 ごまかすことなんて思いもつかず、『わかりません。』 とだけ。
 仲間を傷つけることになろうとは思いもしなかった。
 なすべき事と大義名分はたっぷりと吹き込まれただろうけれど、作戦の真の姿はキャティには何も知らされていなかった。そう思える。
 ショックにどうにか耐えて、健気にもがんばっていたキャティ。
 追い詰めたのはラビィ(悪いやつだ!)。
 でもみんなの前で正体を暴かれて、逆にキャティはほっとしたかもしれない。
 もう自分を偽る必要はなくなったのだから。けれど仲間としてラビィ達のあいだに残ることは出来ない。工作員だから当然? それだけじゃない。アンドロイドであってもキャティのパーソナリティはそのままなのだから。
 最後にラビィ達の脱出を助けることが出来たのがせめてもの救い、かなあ…。私には、キャティの、エルザに対する負い目が残ってしまったように思えてしょうがない。
 自分がエルザを殺してしまったという負い目。心の中のマイナス。どうにかして解消してあげたい。マイナスをプラスに…。
 出来ることなら、エルザ自身にキャティを許してやってほしいと思う。

    ◇     ◇     ◇

 『小型巡恒艦カルパート。第2親衛隊所属。搭載した遮へいスクリーン・システムをフルに使用しての強行偵察が主任務。
 遮へいスクリーン・システムは遠赤外から硬X線まであらゆる波長の電磁波を遮断することが可能。また遮へいスクリーンに任意の波長帯の 「穴」 をあける力をも持つ。
 機関部の重力補償子はGキャンセラーの慣性消去効果に伴う重力波放射を打ち消すため、光速圏遷移時・航行時および亜光速飛行時の機動波、歪曲航跡を探知されることもほとんどない。
 ファントム・クルーザー(幽霊巡恒艦)の別名を持つ。親衛隊第17設計局の傑作である。
 同型艦は当時6隻。ミッション21にはそのすべてが投入された。
 いち未帰還はカルパート1隻のみである。
 第2親衛艦隊の公式記録ではその原因は明らかにされていない。
 なによりもミッション15を始めとし、ミッション23に至るまでの一連の作戦計画等、関連文書のほとんどが何らかの理由により破棄されているため、詳細を知るのは不可能に近い。
 わずかなメモリーの断片を総合して…』



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