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パティ −しなやかに、溌剌と− 不意に背筋が総毛立った。 パティはその場にくぎ付けになった。 隣のラミィも、突然凍りついてしまったように立ち止まった。 何かが来る! まさか、私たちのところに? パティとラミィが顔を見合わせた瞬間、足もとからガツンと衝撃が突き上げた。 通路の床がぐにゃりとたわんだ。 構造材の悲鳴と破壊音と共に、巨大な黒い影のようなものが背後の床を一気に突き破ってきた。 モンスター!! 悲鳴をあげさえしなかった。 視界の隅にそいつをとらえるかとらえないか、コンマ何秒かのタイムラグでふたりは駆け出していた。敵だとか、立ち向かうだとかいう考えの範囲をそいつはとっくに超えていた。死ぬ、逃げなきゃ! 生存本能が第一番に働いたのだ。 ラミィは両目をつぶったまま必死に走る。一方、パティは全力疾走しながらも、ブラスターを左手に持ちかえヘッドセットをオンにした。 「こちら第8地区、怪物出現!」 のどの奥から、しぼり出すように口もとのマイクに叫んだ。 通路にカン高く二人のブーツが反響する。 振り返る余裕などない。ただそいつがグングン距離を詰めてくるのを感じるだけだ。通路いっぱいに広がるローラーに追い立てられるように二人は走った。 その時、目の前にブロック境界のシャッターが現れた。 あれだ! パティは操作パネルにジャンプ。 ラミィがそれに合わせたように、つまずいて頭からのめった。 パティは開操作キーをたたき、左右から閉まるシャッターのあいだに飛び込んだ。ラミィはもろに頭ででんぐりがえった。二人は同時にシャッターをすり抜けた。 ブラスターを持ったまま左を床に着き、ぐっと身体をひねって肩から前転。 パティはそのまま一挙動でシャッターへ向き直り、ブラスターを構えた。 閉じる寸前のシャッターの隙間から、醜悪なモンスターの頭部がチラリと見える。 次の瞬間、合金製の気密シャッターが二人と怪物の間を遮断した。 助かった…。 パティは大きく肩で息をしていた。 気づくとラミィは頭をシャッター側にあおむけにひっくり返っていた。 それでもグッと歯を食いしばって、両手で握り締めたハンドガンをシャッターに向けている。 再びパティはシャッターに視線を戻した。 来るの…? あいつは床をぶち破ってきた。 なら、こんなシャッターなんか紙みたいにひき裂いて…。 パティはギュッとブラスターを握り締めた。 荒い息が静まらない。 耳の奥で血管がドラムのように脈打っている。 いつの間にか、汗が前髪を額にはりつけ、流れて来る。 エルザ、ラビィ、ポニー、キャティ。みんな早くきて! ◇ ◇ ◇ 思い切りの良さ、判断の的確さ、そして運動神経も抜群。なかなかパティはいいとこ見せてくれている。それなのに今ひとつキャラクターがはっきりしなかった。 ラビィと重なってしまうイメージが多いのだ。ガイドロープでの宇宙遊泳シーンが最たるもの。ヘルメットのせいでポニーを助けたのがラビィかパティかちょっと判らなかった人も多いのではないだろうか。 だから、日常描写とか、カオスの部分とかがもう少しふくらますことが出来ていて、二人の対比が出ていたならと不満をもってしまうのだ。 ちゅうちょせず、ポニーを助けにガイドロープを離れる。Gキャンセラーの制御室からラビィとルフィーが敵の迎撃に出ると、すぐその場のリーダーシップをとって 『さあ、私たちも修理にかかりましょう』 とポニーの肩をたたく。 船外でのショックのうえに、敵の来襲、Gキャンセラーのトラブルの予想外の大きさとプレッシャーのかかっているポニーをすかさず励ましてやるなんて、そう出来ることじゃない。 謎の侵入者捜索の時も、ぶちぶちとうるさいラミィにつきあいながら、きちんと出すべき指示は出してやってる。それもごく自然に。ブリッジで、たあいのないゲームに興じる時の笑顔なんかはラミィとさしてかわりがないのだけれどね。 決め手はない。 だから思い入れのみから言わせてもらえば、勘の良さ、だと思う。パティを特徴づけているのは。 考えずとも自然に正しい方向へ飛び込んでいける。行ってしまう。 無謀というのとは違う。天性のきらめきのようなもの。 エルザなら理性で、ラビィなら迷いが生じるかもしれない。ルフィーは自分の道を行くだろう。でもパティには無理を感じさせないしなやかさがある。 若い柔軟さと才能。だからこそ、新しい未来のための母体になれた。なんて言い過ぎだろうか。 少しだけ客観性を取り戻して見ると、やはり、パティって描かれていない。 ポニーへの好意とか、ラビィの 『今度ばかりはあなたの頼みでも…』 とか面白そうな断片はあるのだけれど、有機的につながらないのだ。かなりの思い入れが無いとムリ。 もうほんの少しの工夫で良くなるのに。 例えばパティがモンスターに襲われたあと。『液体に包まれた』 のにその痕跡も無くボケーっと出て来るのはいくらなんでも無いでしょう。 あそこは 『「パティ、今まで何してたのよ。それにその格好は…」とラミィ。全身グッショリぬれたまま半ば意識を失ったようにパティは立っていた。そして手をとろうとしたラミィにもたれるようにその場に倒れた…』 とかぐらいにはして欲しかった。 『パティはすぐに回復し、検査でも異状はなかった。その間、ラビィのキャティへの疑惑はますます深くなっていった』 なんて、説得力増すでしょう。 所詮は後知恵ですが。 パティがパティとして前面に出て来るエピソード、やっぱり欲しかったのさ。 ◇ ◇ ◇ 赤い壁が背後からパティに襲いかかってきた。 右からも、左からも、そして上から、下から。パティを押し潰そうと迫って来る。 パティはスロットルを全開にした。 ありったけの熱と、ありったけのプロペラントをチェンバーへぶち込む。熱衝撃限界も、最適噴射速度ももう何もかも無視。 イナーシャ・アブソーバーをフルパワーにたたき込んだ。脱出。それだけだ。 いきなり、全身をハンマーで殴ったような衝撃が包んだ。 ブレイカーは一瞬胴震いし、無理やり機首をもたげたかと思うと、はじけるように上昇を開始した。 Gゲージは始めから体感限度を超えてしまっていた。 アブソーバーが働いているからこそ押し潰されないですんでいる。しかし、そのアブソーバーのゲージもぐんぐんとレッドゾーンに迫っていた。 一方、ブレイカーが限界を無視した加速を続けているにもかかわらず、成長する火球の前縁はみるみる距離を詰めてきていた。 バイザーディスプレイに明滅するアラームシンボルと、カン高いシグナル音が、早く逃げろとパティをせきたてる。 しかし、高Gに押さえこまれ、パティはぴくりとも身体を動かすことが出来なかった。それどころか、正面のモニターを見ることも、まぶたをあけていることもほとんど無理な状態だった。 「何も出来ないなんて!」 悔しかった。 ラビィから真相を聞いた時、驚きもあったけれど、何よりも悔しかった。 自分の身体を親衛隊の実験のために利用されたこと。 同じ目にあって殺されてしまったエルザのこと。 今、背後で無に帰そうとしているカオスの豊かな大地のこと。 そのカオスを守ろうとして死んでいった仲間たちのこと。 ラミィとあの “子” を守ることができれば、そうは思ったのだけれど… うるさく瞬いているシンボルも、シグナル音もかすれて、もうほとんど判らなかった。残った力を振りしぼってモニターを見ようとしたがだめだった。 猛烈なGに意識が急速に薄れていく。 パティは思った。 絶対にいや! このまま、ヤツらの思いどおりになったままなんて! 黒い影がパティの意識と視界を同時におおった。 ブレイカーは寸前で火球の魔手を逃れ、ズタズタになったカオスの大気圏をとび出していった。 |
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