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  DEFIANCE


§ プロローグ


 エアロックのインナードアが開いた。
 途端に、一面に飛び散ったどす黒い赤が視界に飛び込んできた。
 巡恒艦ミステールのクルーたちは、艦内に踏み込もうとした姿勢のままその場に凍りついた。あまりに夥しい量なので、それが何なのか一瞬誰にも分からなかった。
 血だった。
 ボーディング・ルームのパールホワイトの内壁を真っ赤に染めているのは、彼女たちと同じソルノイドの身体から流れ出た血液だった。
 そう気づいた時、目の前にそれが転がっていた。
 やっと自分たちが見ているものに気付いたのだ。
 金属と合成樹脂がぶつかる鈍い音が静寂を破った。
 脇に抱えたヘルメットを取り落として、アミィがその場に崩れ折れた。
 アミィは床に激しく嘔吐した。
 死体を見たからだった。
 シルディーは咄嗟に死体から顔をそむけた。しかし、勇気を奮い起こして再び視線を戻す。
 肉塊だった。
 壁にもたれかかった部分から、半ばちぎれた首が胸の上に垂れている。
 ズタズタになったユニフォームから、辛うじてこの艦のクルーだと判明できた。
 突きだした手足は普通では到底ありえない角度に折れ曲がっている。
 ささくれだった断面をさらした骨が、皮膚とユニフォームを突き破っている。
 のろのろと無残な姿の上を辿っていたシルディーの視線が、再び釘付けになった。
 シルディーは、マペットが糸で操られるように腕を上げて、死体のすぐ上を指差した。

 “死の艦へようこそ”

 正面の壁に塗りたくられた血は、かろうじてそう読める。
「いったい何があったの、この艦で…」
 自分のものとは思えない、しわがれた声がシルディーの喉から絞り出された。
「挑戦だわ…」
 かすかな呟きを耳にしてスピアは振り返った。
 情報局から派遣されてきたリンディー曹長だった。
 彼女はきつく唇を噛み締め、壁に記された血文字を凝視していた。



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