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§4 銃声と遭遇 「ユノーだ。各班、配置状況」 “第1班、完了” “2班完了” 内耳に取りつけた小型通信機の声を聞きながら、ユノーは艦内輸送車のサイドシートから降りた。振り返らず、まっすぐにターミナルヘつながる連絡通路を進む。後ろにはショックガンを抱え、ボディアーマーに身を固めた警務隊員たちが続いた。 「予定より標準時間で 1/30 時間遅れている。抵抗がある場合は各自適切な処置を取れ。ターゲットの確保が最優先だ」 両眼から耳までをすっぽりと覆った黒の角ばったアイグラスが、ユノーの機械のような無表情さをいっそう際だたせている。正確に一定のリズムを刻みながら、警務隊の特別部隊は配置につこうとしていた。 狩りが始まるのだ。 どうしよう…。 クリスは考えた。 フリーのカートはすでに他のソルノイドたちに押さえられたものばかりで、割り込むことはできなかった。次のステーションまでの道のりの半分ほども行ってみたが、やはり利用できる手段はない。探している間に時間も経ってきたので引き返し、結局、移動手段を見つけられないままターミナルまで戻ってきてしまった。辺りの人影は減ってはいたが、まだシャトルから吐き出された三分の一近くの人数がホールのあちこちに小さなグループを作り、所在なげに立っていた。 やはり、チューブが復旧するまで待つしかないかしら。 待っているはずのルフィーの姿を探して周囲をひとわたり見渡す。さまざまな配色の制服のソルノイドたちの中でも、アタッカーズのダークパープル主体の制服は目立つ。警務隊の黒一色と双璧をなす、といっていい。どちらも荒っぽいことで名を売っているが、アタッカーズと警務隊とでは意味合いが異なる。アタッカーズの荒っぽさはパラノイドに対してだが、警務隊のそれはソルノイドに向けられるのだ。幸いなことに、クリスの視界内には警務隊員の姿はなく、ルフィーの明るいプラチナブロンドの髪とダークパープルのコントラストがすぐに見つかった。ホールのちょうど反対側、ターミナル・ボックスの脇だ。向こうも彼女の姿を目にとめたらしい、右手を上げるとこちらに向かって歩き出した。 「すみません」 クリスは立ち話をしているソルノイドたちをかわしながら、大きなストライドで進む。ホール中央を越えようとしたところで、不意に左手からグレーの制服を着けた二人のソルノイドが現れた。クリスのことに気づかないかのように、そのまま目の前を横切ろうとする。 手を引かれてる子、まだ幼年学校出たばかりって感じだけれど…。 ふらふらとおぼつかない感じのその子の足元が気になって、クリスは歩く速度を緩めた。手を引きながら前を行く黒いショートカットの子は、ただわき目も振らずまっすぐ早足に進むだけで、手を引いている淡いグリーンの髪の子のことに構っていられないという様子だ。 どうしたんだろう。 クリスの視線が肩ごしに振り向くように、行きすぎようとした二人の背中を追った。 そのときだった。手を引かれていたペパミントグリーンの髪の子が、脚をもつれさすようにしてフロアに倒れた。 「だいじょうぶ?」 クリスは、黒髪の子が振り返るよりも早く倒れたまま動こうとしないアシスタントのもとに駆け寄っていた。抱き起こすと、顔が赤い。肌にじっとりと汗が滲んでいる。 これは…。 「ひどい熱じゃないの!」 顔を上げるとすぐそこに、その子の連れが顔をこわばらせてクリスを睨んでいた。 「あなた、どうしたの。こんなまま放っておいちゃだめじゃな、」 「パールに触らないでっ!!」 甲高い声がホールに響いた。 三人はホールの中央で起こった騒ぎに足を止めた。 「誰か倒れたみたいだけれど…」 「うん、あたしぐらいの子だったよ」 人が集まり出した辺りをじっと見つめているアミィ。シルディーはスピアの視線に小さくうなずいて応えた。 「いってみましょう」 「いいの?」 アミィがシルディーの顔を見上げる。 「これ以上は少しぐらい遅れても、もう違いはないわ。それよりも、何か役立てるかもしれないでしょう?」 「うん」 「ほら、いくぞ」 こつんと拳でアミィの頭に触れると、スピアはさっさと騒ぎの中心へと駆けていく。アミィは、ずりおちかけたメガネを人差し指で押し上げながらあわてて後を追った。シルディーも彼女に続く。 役立てる、というの大げさな言い方だけどね。多分、大したことはないはずだわ。 シルディーは思った。 巡恒艦ミュールでのようなことは、ありっこないのだから。 彼女を含め、スピアもアミィも専門の訓練を受けていた。たいがいのソルノイドたちが、通りいっぺんの応急処置を教え込まれるだけなのに対し、特殊なグループ編成で単独任務に就かされるシルディーたちは徹底した救急対策を叩き込まれている。体の一部を失うような重い傷に対してさえ、ありあわせのキットででき得る限りの延命処置を施せるようにだ。 普通はこの能力も出番がない。なぜなら、彼女たちの戦いはドローンや巡恒艦で行われるからだ。そうした場合は、大きな負傷は即、死につながるし、そうでなければ医療スタッフが控えていてくれる。直接血を見るようなパラノイドとの白兵戦などというものは、突撃隊員でもない限り経験することはできない。 だが、確かに、彼女たちはその稀有な経験の持ち主ではあった。ミュールヘシルディーたちが派遣されたときは、敵と直接まみえ、仲間の血を流したのだから。そして、それは血を流すだけでは終わらなかったのだから…。 ロティやヴィク、ハン、カー、エナ、グレイル。 思い出してしまったわ。 シルディーは暗い記憶を振りきるように頭を振ると、ホール中央の小さな人の輪の中に割り込んだ。 ルフィーは大きなため息をつき立ち止まった。 またかよ。 本当にやっかいごとが重なり始めたな。 フロアに片膝を突いて、小柄な子を抱え起こしているクリスの背が見える。そばにいた幾人かのソルノイドがその周りを取り巻き、さらに何人かがホールのあちこちからやってくる。 物好きが多いな。 ホールの警備担当に引き渡せば、それだけで済むことだろうに。時間を持て余しているってわけか。あの様子だと、クリスもカートの手配に失敗したようだし…。 思いつつ、また歩き出そうとした。とたんに自分も物好きの一人であることに気づき、ルフィーは苦笑した。 そうしているうちに、目の前の人だかりに新たに3人が加わる。戦闘艦隊勤務の黒と赤の制服の二人。一人は小柄なコンバットアシスタント、ポニー・テールにメガネ。もう一人は頭一つくらい背が高いだろうか、赤いくせのある髪。二人してクリスの脇にかがみ込み、何事か話している。三人目は、その後ろで、じっと見守っていた。長身で、背中の流れるようなストレートの黒髪が目立つ。ときどきクリスたちに声をかけている。 少尉か。あいつらのリーダー格ってとこだな。 …おっと、観察なんかしてる場合じゃない。 クリスたちのところへ行こうと脚を踏み出しかけて、ルフィーは急に振り返った。 視線を感じたのだ。 ただの視線ではない。背筋がぞっとするような冷たい感覚が走った。誰かが凝視している。ともかく普通ではない。彼女が感じたのは殺気そのものだった。 ルフィーは素早く視線の主を探した。 いた…! 正面、ルフィーが出てきたばかりのターミナル・ボックスの列の外れ、壁際にぽつんと一人立っている黒と赤の制服姿だ。一瞬、まっすぐにルフィーを睨んでいるように見えたが、そうではなかった。そのソルノイドは、彼女が振り向いたのに気づくそぶりもなく、上着の中に右手を突っ込みじっと動かない。ルフィーはその視線の先を追って、今一度振り向いた。 ホール中央のクリスたち、さらにその向こう、ステーションから外へと延びる通路。そこに、今までルフィーが気づかなかったものが見えた。黒一色の制服の横隊。頭をすっぽりと覆ったヘルメットと、両腕に抱えたショックガン。 警務隊…!? 慌てて他の通路への出口を確認した。 あっちもか! 姿は見えない。しかし、その周囲のソルノイドたちの表情、ざわつきが普通でない。彼女たちがルフィーと同じものを見ているのは確実だ。 いったい…? 再度、ターミナル・ボックスの脇へと目をやる。そして、ルフィーは凍りついた。戦闘艦隊勤務の制服の下から抜き出されたソルノイドの右手は、小型ブラスターをしっかりと握り締めていた。ルフィーは銃口を真っ正面から見つめる形になっていた。 「やめろっ!!」 ルフィーが叫ぶ。が、それより、一瞬早く、ブラスターは発砲された。 ホールにいたソルノイドたちは、あっと言う問に戦場のような混乱の中に巻き込まれていた。 ブラスターから放たれた熱線は、とっさに伏せたルフィーの頭上を外れ、ホールに入ろうとしていた警務隊の列に突き刺さった。それも、一本だけではない、ルフィーが気づかなかった位置から撃たれた数本のビームが集中し、同時に黒一色の警務隊員をなぎ倒す。あちこちから悲鳴とも、怒声ともつかない声が上がる。パニックが起こる。ホールのあちこちにいたソルノイドたちは、ビームから逃れようと出口ヘ、あるいは支柱の陰へと走った。すぐさま始まった黒い制服側の反撃がその混乱をさらに大きくした。ホール側からの第一撃をかわした数人と、他の通路から中へ向かっていた警務隊員がショックガンを猛烈な勢いで発射する。不運にも射線上に立っていたソルノイドがぼろ屑のようになって弾きとばされる。逃げ道であるはずの出口は警務隊が塞いでいる。ホールにいた全員が、その場に閉じ込められてしまったのだ。いったん出口に殺到しかけたソルノイドたちは、ベンチや清涼飲料水のディスペンサー、情報表示ボード、とにかく身を隠せる場所をもとめて、やみくもに声を上げ、走った。 巡恒艦内で銃撃戦かよ、いい加減にしな…!! フロアに這いつくばるように低い姿勢で、ホール中央のクリスのもとへ急いだ。強化プラスチック製ベンチの陰へとりあえず身を隠す。逃げ損なったソルノイドがショックガンの流れ弾をくらい、倒れている。軟質樹脂製とはいえ、至近距離から、しかも頭部に命中したりすれば生命に関わる。その証拠が目の前にあった。 フロアには倒れている体から流れた血で不規則な模様がいくつも描かれていた。 しかし、ルフィーはそれには構わず、次のベンチに身を潜めているクリスの脇に滑り込んだ。まわりに視線を走らせると、その場にいるのは6人になっていた。 「隊長…!」 「無事か」 「どうにか。いったいなんなんですか、これは?」 クリスが声を張り上げる。出入口に陣取って射撃を続ける警務隊のショックガンのせいで、直ぐとなりにいるのに声も聞こえないのだ。どうやら、警務隊の狙いだったらしいソルノイドたち数名は、ターミナル・ボックスの影からブラスターで応戦しているようだ。 「オレが知るか。それより、引き上げるぞ」 辺りの状況を見ようとしたクリスの頭をフロアに押さえ込んでルフィーが怒鳴る。クリスの濃いブラウンの髪をビームがかすめる。 ちっ、吹きっさらしのど真ん中だ。最悪だぜ。 少しでもベンチの列から頭を出せば、そのまま地獄行きでもおかしくない。ルフィーは頭を引っ込めると、伏せたまま前を見た。目が合う。ついさっきの髪の長い少尉だ。 「賛成です。次に、射撃が弱まったら、一気にあそこに」 フロアに這わせた右手の拳から親指を立て、ホールの一角を指す。壁が凹状になっており、ハッチが見えた。 「ユーティリティ・ハッチです。メンテナンス通路に出られますから」 「ルフィーだ。クラカタウには着いたばかりで勝手が分からん。助かるぜ」 素早い反応に、ルフィーは内心、にやりと笑う。 見てくれがいいだけのおかざりじゃないな。こんな修羅場でも顔色が変わらないのは、上等だ。 ルフィーは右手を差し出した。相手も手を伸ばし軽く握り返す。 「シルディー少尉です」 「悠長に自己紹介している場合じゃないわ!」 小脇にコンバット・アシスタントの一人を抱くようにしている赤毛のクルーが鋭く言った。腕を振りほどこうとするその子を無理やり押さえ込んでいる。 「放せよ、放せってば!」 嘆き暴れるが赤毛の腕からは逃れられない。その横でポニーテールは、どうしたらいいのか分からないという怯えた表情で、頭を抱えてフロアに伏せている。 「うちのグループのスピア、隣がアシスタントのアミィです」 「わかった。クリス、そっちはいいな?」 「ええ、このまま私が運びます」 クリスはフロアに倒れていたほうの淡いグリーンの髪の子を抱き上げた。ルフィーは片膝を立てて体を起こし、タイミングをうかがう。頭越しの銃撃は、弱まってはいるがいっこうに止む様子がない。 スピアが舌打ちした。 「相手の数は少ないんだから、一気に決めてしまえばいいのに」 「それで、死体だけ回収するのか」 ルフィーは横目で相手の表情をうかがう。意外そうな目つきで、スピアはこちらを見ている。 「…そういうのは、好きじゃないね」 「突入しないんですか!?」 「こちらに無駄な犠牲は出したくない」 入口の支柱の影からホールの様子をうかがっている部下に、ユノーは静かに応えた。ブラスターの応射が激しく、容易には中に踏み込めない。膠着状態が続いている。 「しかし、抵抗する場合は、」 「適切な処置を取れといった。こちらにはショックガンしか装備がない。人員も不足だ」 黒く冷たいアイグラスが、振り返った顔をじっと見つめた。 ユノーにはわかっていた。 今、ホールの周囲、出入口で応戦している人数でも、抵抗している数入を制圧するのはたやすい。無論、警務隊員にかなりの負傷者は出る。しかし、この騒ぎを鎮圧するにはそれがベストだ。長引かせるのは下策だ。 しかし、彼女には簡単に事態を収拾するつもりはなかった。 「このまま周囲をかためておけばいい。ブラスターのパワーパックもじきに尽きる」 「…ですが、被害が…」 警務隊員は白く無表情な上官の顔を見つめた。見事な金色の髪とあいまって、恐ろしいほど冷酷に見える。きっぱりとした、気負いもためらいもない口調がその印象をさらに強めている。 「現状では仕方ない。目標の確保が優先だ。ガス弾の手配は済んでいるはすだな」 「は、はい。特殊装備班が向かっています」 「到着次第、実力行使に移れ」 「了解しました」 部下の声を背中に聞きながら、ユノーはその場を離れ、搬送カート専用通路へと歩き出した。 予定とは多少ずれたが、ほぼ計画通りだ。 ホール周辺の封鎖を進める警務隊の交信を内耳の受信機で確認しながら、黒く塗られた人員輸送車のサイドドアを開ける。 この事件は、多少派手になってもらわなければ困るのだからな。 今後の展開のための重要なステップだ。 ユノーは考えた。シートに腰を下ろす。 つくづく面倒だ。 なにもかも。この戦争自体が…。 しかし、遅れるとはな。始末がやっかいになる。 胸のポケットから薄い金属ケースを取り出す。ぱちりとフタを弾いて、指先はどの細く白い円筒をつまんだ。いわゆるブースト・ドラッグ、精神賦活剤だった。両端を覆っているシールをはがして軽く口にくわえる。深く息を吸い込む。ぽっというかすかな音が、先端に含まれた化学物質が反応を起こした徴だ。 ユノーは肺の奥へと深く息を吸い込んだ。しばし、息をためてから紫煙をはく。 「効かなくなっているな…」 小声で呟くと、長いブロンドの髪を肩の後ろへとはねあげる。シートの背もたれに体重を預けて、内耳に仕込まれた通信機から流れる部下たちの交信にじっと耳を傾けた。 それまでの、ルフィーの表情、いたずらっ子のような瞳の光に不快そうな色が混ざる。 えっ…。 鋭い目で睨まれたような気がしてスピアは思わず口を押さえた。しかし、ルフィーは軽く唇の端を歪めてみせただけで、彼女たちを取り囲んでいる危険へと注意を戻した。 「そろそろ頃合いだ」 何人かが傷つき倒れたせいだろう、ビームの応射は少なくなってきた。しかし、警務隊側に手を緩めるつもりはなさそうだ。ショックガンの集中射撃の勢いは弱まらない。 このまま、銃撃だけで片づけるつもりなのか。 動かないでいることも選択肢の一つだが、じっとしていてもこの様子では無傷では済みそうになかった。 プラスすることの、ちびっこいのの容体…。 ルフィーは考えた。 わずかに腰を浮かせ、クリスの肩に手を置く。それを見て、スピアとシルディーは互いに小さく頷いた。 「最初に私が行きます、次にクリスさん。続いて、アミィとスピア。最後をお願いできますか?」 「ああ、承知した」 変な遠慮もない。気に入ったぜ。 じっとこちらを見る黒髪の少尉の表情に、ルフィーは気を取り直した。ささくれかけていた気持ちが、いつもコクピットでスティックを手の中に包んでいるときのぴったりとした落ち着ける感覚へと鎮まっていく。 ルフィーは左の拳から親指をひょいと突き出してみせた。 すると、唐突に射撃が止んだ。 「行きます!!」 数瞬とおかず、低い姿勢のままシルディーがベンチの陰から跳び出した。ほとんど同時に、淡いグリーンの髪のアシスタントを抱えたクリスが続く。二人の動きに応じて、再び、両側から発砲が始まった。シルディーとクリスの足もとにショックガンの弾丸がはじける。危ういところで、二人は艦内案内図を表示している情報ボードの陰に隠れる。 ぱたりと射撃が途絶える。すぐさまショックガンの銃弾はもとの目標へ、ルフィーたちの頭上越しにターミナル・ボックスヘと向けられた。ビームの応射がまた激しくなる。 「ほら、次だ!」 躊躇してちらりと振り返ったアミィに、ルフィーは怒鳴った。 「でもっ!」 「行け!」 「アミィ!」 スピアに突き出されるような格好でアミィが走り出す。スピアも、もうひとりのコンバット・アシスタントを横抱きにする形でその後を追う。さすがにその子も逆らわない。必死の表情で走っていく。今度は、ショックガンの弾丸も二人を襲ってこない。無関係と分かったせいか、ブラスターのビームに対抗するので手いっぱいのせいか、理由は分からないが、そのおかけでアミィとスピアたちはなんとか情報ボードの位置までたどり着いた。一方、その間にクリスとシルディーはホール壁面のくぼみ、メンテナンス・ハッチに到達している。 これで、あとはオレ一人…。 頭を上げかけたところへ、いきなり射撃が集中した。フロアで弾丸か跳ね、ベンチの強化プラスチックが欠けて、破片をまき散らす。 なんのことはない、結局、無差別攻撃かよ! 次の瞬間、息継ぎのように射撃が止んだ。その隙を逃さず、ルフィーはダッシュした。 前を行く二人プラス一人の背中が見える。アミィたちのときと違って今度は容赦がない。ルフィーの走る跡をまっすぐに銃弾が追いかけてくる。 オレの方が目立つってのか…っと。 情報ボードの太い金属性支柱の陰に滑り込む。 小さく舌打ちして、左のふくらはぎを見た。制服が裂け肌が見えている。見る間に血がにじみ出す。しかし、痛みはあるが動かすには支障なかった。 「はやく、こっちです!」 ハッチの脇からクリスが呼ぶ。パネルはもう取り外したのだろう、ぽっかりと聞かれた縦長の黒い長方形の中へ入っていくポニーテールのアシスタント、アミィの背中が見えた。 再び、射撃が弱まった。 これで、おさらばだ。 ルフィーはすかさず支柱の陰を跳び出し、走った。今度はうまく隙を捉えたのか、銃弾の雨はルフィーを追ってこない。あと数歩、無事に横断成功と思ったとき、弾を受けた左足が滑った。両手を広げたクリスの真正面から突っ込んで、もつれ合うようにしてフロアに倒れた。 「大丈夫ですか…」 「下敷きになってるヤツがいう台詞かよ」 ルフィーは立ち上がると、しりもちをついているクリスの手をとって引き起こす。 「跳弾かなんかがかすめたが、それだけさ」 「でも、血が…」 クリスの言うとおり、ルフィーの手は真っ赤に染まっていた。一瞬、ぎょっとしたが、すぐに思い出す。 「フロアの血だまりだよ、オレの傷じゃない」 硬い表情でその手をズボンにこすりつけ血を拭う。そして、ルフィーは開き放たれたハッチから辺りをうかがうシルディーを、拳から立てた親指で示した。クリスは黙って頷き、二人はハッチの中へと潜り込んだ。 馬鹿な…。 なんでこんな場所で血を流さなきゃならないんだ。 ルフィーは思った。 |
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